Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

村山 斉 『宇宙は何でできているのか 素粒子物理学で解く宇宙の謎』

 東大数物連携宇宙研究機構(http://www.ipmu.jp/ja
)の機構長・村山氏による、素粒子物理学宇宙研究の最先端を紹介する新書。好評というので買ってみたが、とにかく面白い。2010年に読んだ本の中で一番面白いかもしれない。

 当方は高校で物理を習わなかったのだが(今思えば痛恨の極み)、1990年代に小中学校で理科を学んだときには、確か物質の最小単位は原子だと教えられた気がする。いや、原子の真ん中にある原子核を構成する陽子や中性子原子核の周りを回る電子のことだったかも。いずれにせよ、物理学はある程度完成された学問で、まったく面白みのないものだとばかり思っていた。
 それがどうだろう、相対性理論量子力学の登場を経て、科学技術の進歩に伴い(有名な「スーパーカミオカンデ」の設置もそのひとつ)、フェルミ粒子(6種類のクオークと、電子やニュートリノを含む6種類のレプトンから成る)と、物質間で働く力を伝達するボース粒子(パウリの排他原理に従わない、グルーオン、光子、W・Zボソン、重力子の4つの粒子。たとえば陽子は3つのクオークグルーオンから成る「チェリーパイ」のようなものであり、グルーオンクオーク同士をくっつける糊の役割を果たす)によって宇宙のほぼすべての物質が構成されていることが、20世紀の終わりになって明らかになった(標準模型の完成)。
 しかしながら、それでもまだ弱い力・強い力・電磁気力の3つの力を統一して説明する理論は完成に至っていないし、さらに重力を加えた4つの力を統一的に説明する大統一理論の構築にはまだまだ時間がかかりそうである。超ひも理論(10(11)次元に至る時空を想定し、止まっている粒子が持つ質量を見えない時限で生じる運動エネルギーとみなす)は、大統一理論につながる可能性のある有力な仮説である。

 以上の話だけでも面白いのに、この本の序章と終章は、宇宙の起源や成り立ちに関する、未解明の問題の説明に充てられる。暗黒物質(宇宙の全エネルギーの23%を占める謎の物質。その特徴からWeakly Interacting Massive Particlesと呼ばれている)、暗黒エネルギー(宇宙の全エネルギーの73%を占める。宇宙の加速的膨張に貢献する謎のエネルギー)、反物質(性質は同じで電荷だけが粒子と反対の「反粒子」。クオークのCP対称性の破れ、そして恐らくニュートリノのCP対称性の破れのために、ビッグバン直後にすべての反物質が消滅した後も少しの物質(今の星や我々)が生き残った)、ヒグス粒子(物質の質量を生むと考えられている粒子で、予想される量は宇宙の全エネルギーの10の62乗%!)。宇宙研究とはかくも面白い、好奇心を刺激する世界であったのか。

 本書で展開される村山氏の解説は、とにかく平易で、比喩を用いてわかりやすく、茶目っ気たっぷりのユーモアも織り交ぜられており、一般向け科学書としてこれ以上ない仕上がりになっている。本書を中学生のときに読んでいれば、当方は間違いなく物理学か宇宙論か数学の世界にどっぷり嵌る青春を送っていただろう。文科省やメディアも、最近の中高生の理科離れをぶつぶつ言うくらいなら、つまらない教科書の代わりに本書を中高生全員に配れば良いのではなかろうか。

幻冬舎新書、2010年)

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