Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

ヴィジャイ・マハジャン 『アフリカ 動き出す9億人市場』

 経営学者のマハジャン氏が、消費市場としてのアフリカ大陸の現状と展望についてまとめた本。
 アフリカ大陸全体を一つの国とみなせば、その経済規模(GDP総計)はインドを超えてカナダやイタリアに迫る。とくに、爆発的に増えつつある「セグメント2(推定約3億5000万人~5億人、高所得層と貧困層の間に位置する、膨大な潜在的購買力を秘めた中間所得層)」の消費ニーズにいかに応えることができるかが、アフリカでのビジネス拡充の鍵となる、というのが本書の主張。

 近年のアフリカ諸国の経済の移り変わりのスピードは凄まじい。いまや携帯電話が通じない地域は、一部の砂漠や密林地帯、無政府地帯を除いてほぼなくなった。エジプト・オラスコムのCEOの言「貧しくても裕福でも、コミュニケーションをとる必要は誰にでもありますから」に、アフリカの人々にとっての潜在的ニーズの可能性が集約されている。マハジャン氏は、「アフリカにおける違いは認識されねばならないが、消費者市場は基本的かつ普遍的なものに共通して関心が向いている。つまり、健康、食事、水、衣類、住居、交通手段、通信手段、家族の世話、幸福感といった、人間の基本的のニーズへの対応だ」、と本質を突いている。

 浮上しつつある購買力に対していかにそのニーズを汲み取るか。第4章で紹介されているモロッコのハヌート(飲料や日用品を売る雑貨屋。ほとんどが家族経営)のブランドチェーン化の事例が面白い。地元のBCME銀行と連携して、顧客との密接な関係や付け払いといった従来からハヌートが提供してきた近代的なチェーンが対抗できない強みを継続させつつ、流通経路の整備や新しい金融サービスの提供に乗り出した。マハジャン氏の言を借りれば、未整備の「市場が組織化された」一例である。
 もともとアフリカ諸国では、小売業の大部分がこうした家族経営の自営業やインフォーマルセクターによって営まれていた。その利点を最大限に生かしながら消費者の新たなニーズに応える製品・サービスを提供する事業者は、まだまだ未開の市場ゆえに、莫大な果実を手に入れることができる。小規模な雑貨屋とのネットワーク構築や地方巡回員の設置、小分けパックの販売を通じて数百万ドル規模の事業をガーナで育て上げたユニリーバ社の成功事例は、あまりにも有名である。

 先日、エチオピアを訪れた際に、花卉産業の振興が近年著しいことを現地の方から聞いた。本書でも、第5章「インフラの市場機会」でエチオピアの花卉産業について触れられている:「エチオピア内陸国で、7500万人の人口のうち85%が農村地帯に住んでいるしかし強力な航空会社と倉庫施設があれば、世界市場につながることができるのだ」「同国は現在、ヨーロッパへ年間1億2000万ドル分の花を輸出している。この成功は、政府からの支援、航空会社、冷蔵設備、ふんだんに降り注ぐ日光などの複合的要因の上に成り立つものだ。年間200%という成長率で伸び続けるエチオピアの花卉産業は、5年以内にケニアに追いつけると見込んでいる。この産業では5万人が直接的に、間接的には24万人が雇用されている」。
 上述の「市場の組織化」、増え続ける若年層労働力の活用、起業家の育成、政府の賢明な経済政策などと並んで、水や道路、交通といったインフラ整備はアフリカの市場整備に不可欠のファクターである。言わずもがな、国内外の政府による資金や技術のタイムリーな投入が望ましく、インフラ整備なくして「最後のフロンティア」とも揶揄されるアフリカ大陸には膨大な生産・消費ポテンシャルの発揮はありえない。

(邦訳:松本 裕 訳、2009年、英治出版
 原著:Vijay Mahajan 'Africa Rising: How 900 Million African Consumers Offer More Than You Think' 2009.)

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