Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

岡倉 登志 編著 『エチオピアを知るための50章』

 先日、エチオピアに出張する機会に恵まれた。雨季の終わりで、今季は稀に見る降雨量の多さによって、豊作が期待されるとの由。地方の大地は緑に覆われ、首都は建設ラッシュで不動産ブームに沸き、観戦道路も中国の投資によって整備され、まさに経済成長の息吹を肌で感じることができた。
 当方を含め多くの日本人にとっては、エチオピアといえば、1980年代や90年代の飢餓のイメージが強いのではないだろうか。しかし、今回の訪問で、そのイメージは覆された。もともと肥沃な土地が多く、食糧どころか、土地によっては野菜や花卉の栽培も盛んなのである。今でも特定地域の不作による単発的な飢餓は発生しているが、国家の根本を揺るがすような事態には至っていない。過去の飢餓の際にも、市場や倉庫には一定の食料が眠っており、どちらかというと国家や市場の食料配分機能・価格設定機能に問題があった(不作なのに厳しい税を課した、不当に価格を吊り上げ市場で農民が食料を購入できないようにした)といわれている。飢餓は、当時の無能な政権による「人災」であったのだ。

 さてこの本、エチオピア出張の前に購入したのだが、エチオピアの社会、民族、歴史、文化、政治、外交など、同国の主だったトピックが網羅されており、現代エチオピアについて日本語で知ろうと思えば欠かせない文献になっている。テフ(インジェラ)やエンセテ(コチョ)といった同国の豊かな食文化、ラリベラの岩窟教会群、数千年に及ぶ帝国の歴史、古くからの日本とのつながり。本書を読めば、よりエチオピアを身近に感じられるに違いない。強いて言えば経済面についての記述が弱いが、これは執筆陣の構成を考えればやむを得まい。

明石書店、2007年)

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