Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

高橋 洋一 『日本経済のウソ』

 日本経済の低迷はデフレによるものであり、その元凶は日銀にある、と明快に説明する本。

 「実は日本の景気が悪いのは、サブプライムローン破綻の余波というより、2006-07年の金融引き締めが原因です」と言い切る。日銀がよくデフレの原因としてあげる低成長・低生産性についても、「まさにそれこそ(名目金利物価上昇率を差配する)日銀の仕事」と喝破する。量的緩和政策の再開及び国債大量買入れを見据えて「日銀券ルール(日銀の長期国債保有残高を日銀券発行残高以内にする)」の撤廃を唱え、政府・日銀による議論の深化を促している。
 金融政策以外にも、マクロ経済学の潮流や財政政策、規制改革など本書の議論は幅広い。幅広いが、簡潔で的を得ている。「名目4%成長ができれば、(同時に国債価格がかなり下がることになっても)財政問題はかなり解決します」「増税が必要になるかどうかは、名目4%成長ができるかどうかがカギです」という。かつての「上げ潮派」の真骨頂だが、確かに景気が上向いた2007年度は6.4兆円の赤字にまで縮小したことを考えれば、あながち暴論とはいえない。財政政策とあわせ、更なる金融緩和と規制緩和をもって、成長率を押し上げる覚悟と知恵が政府と日銀にあるか(正直いまの民主党政権にはあまり期待できない)。

 ところで、この本を読んで「ほうほう」とうなずいていた矢先、日銀による「包括的な」政策パッケージが発表された(http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk1010a.pdf
)。その内容は、①ゼロ金利政策の継続、②5兆円規模の基金創設による国債REIT・CP等の買取り(実質的な量的緩和政策への移行)、③上記措置を物価上昇率1%になるまで継続(時間軸政策の導入)の3点。与党からもメディアからも学界からも海外からも圧力をかけられ、ようやく日銀が重い腰を上げた、という印象。しかし、基金の規模は不十分ではないか、残存期間数年程度の国債買取りでは意味がないのではないか、時間軸政策継続の目安が「物価上昇率1%」では弱いのではないか、などの疑問が頭をよぎる。政策的余地はおそらくまだまだある。インフレの可能性や平時の金融政策へのこだわりを捨て、この機会に日銀のもてる政策を総動員してほしい、というのが正直な感想である。

ちくま新書、2010年)

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