Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

宮本 正興、松田 素二 編 『新書アフリカ史』

 サブ・サハラアフリカの歴史について日本語の文献を手に取るなら、まずこの本。新書とは思えない600ページの分厚さだが、冗長な記述はほとんどなく、すらすら読める。

 「アフリカ社会は、ヨーロッパがイメージした『閉鎖社会』などではなく、地域内部あるいは地域間相互に頻繁な交流を続ける開放型の社会だった。地域を束ねる核になったのが大河であった。地形や気性、あるいは社会的条件によって地域を貫通する道路網が困難であったアフリカでは、代わって河川が人や物、制度や思想を運んだ。」とする第Ⅰ部は、巨大な叙事詩の幕開けのようである。続く第Ⅱ部では、ザイール川流域、ザンベジ・リンポポ川流域(南部アフリカ)、ニジェール川流域、ナイル川流域の4地域の文明形成史が綴られる。

 第Ⅲ部の「外世界交渉のダイナミズム」も、サハラ砂漠・インド洋・大西洋を舞台としてモノやヒトが縦横無尽に動く様子が描写されていて面白い。奴隷貿易や西洋の植民地支配についての冷徹な記述も参考になる。サハラ砂漠の交易が活発だった時代、金など有力な産品をもたなかった中央スーダン地域では古くから奴隷が第一の交易品目であったこと。中・南部アフリカの海岸沿いにヨーロッパ商人の交易基地が建設されるにつれ、トンブクトゥやジェンネといったサハラの商業都市が衰退を余儀なくされたこと。欧米の奴隷交易禁止措置が、決してヒューマニズムに因るものではなく、産業革命に至る過程で自国内で賃金労働者を調達できるようになったという経済上の変化によるものであったこと。

 植民地期あるいは独立期以降の歴史についても、大陸を横断する視点で簡潔にまとめられている。作られた国境に基づいて独立を勝ち取った「国民国家」が内戦・紛争・格差などの構造的な問題をあらわにした経験をふまえ、1991年以降のエチオピアが推し進めたような多元主義、「緩やかで単一でないアイデンティティ」あるいは「浮遊する柔軟なアイデンティティ」の必要性を説いている。アフリカ諸国の政府は、ときとして特定の部族や人種を「反抗勢力」として駆逐する暴力装置の役割を担ってきた。中東やバルカン半島、南アジアなど、他の地域も少なからず民族間の対立を経験してきたが、なかでも現代のアフリカ諸国が経験してきた苦悩は想像を絶する。ルワンダブルンジリベリアシエラレオネソマリアスーダンコンゴ民主共和国。20世紀末から2000年代にかけて続く悲劇の連鎖は、そろそろ打ち止めにしなければならない。

(1997年、講談社現代新書

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