Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

松岡 環 編著 『南京戦 閉ざされた記憶を尋ねて』

 日本や中国の近代史について勉強しているうちに引っかかり、改めて調べてみようと思った「南京大虐殺」。アマゾンで文献を検索するうち、「元兵士102人にインタビューした結果をまとめた」という本書に行き当たった。
 
 日本の市民グループが、当時南京に入った旧日本軍兵士にインタビューを行い、その模様をテープ起こし形式でまとめているのだが、その内容は凄まじいの一言に尽きる。捕虜や民間人の虐殺、暴行、略奪。たとえばどのような命令のもとに、何を考えながら、どうやって組織的に捕虜を殺害したか、現地女性を「徴発」したか。描写は生々しく、詳細である。国際法もろくに知らない兵士が「敵国」に入り、自制装置を外してしまった瞬間、どんなに所業をなしうるか。自分で買った本ではあるが、読んでいて思わず吐き気を催した。

 日本ではときおり「南京大虐殺はなかった」という説が実しやかに語られるが、確かに中国側が国策として被害を誇張している向きはあるかもしれないものの、それを差し引いたとしても、少なくとも「事件自体なかった」とまでは、恥ずかしくてとても言えない。当方は左翼でもなんでもないが、原爆や空襲の被害を後世の世代に伝えていく責務があるように、道徳なき旧日本軍兵士の侵略地域での暴力についても、語り継ぎ自らを省みていく必要があるはずである。
 インタビュアーは「元兵士たちが、加害の事実を語ったとしても、それは『戦争だったから』『命令だったから』『英米もやっている』ということばで合理化されるとき、そこには『主体的自己』を欠落した半世紀前の価値観がなお老人たちの頭の中で脈々と生きていることを知るのである。それは、また、この日本社会総体が過去の歴史の過ちを真摯に反省し、教訓化してこなかったせいでもあろう。しかし、このような過去の合理化は、被害民族や世界に決して通用するものではない」と綴っている。まさにそのとおりだと思う。

社会評論社、2002年)

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