Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

白井 早由里 『マクロ開発経済学 対外援助の新潮流』

 もとIMFの慶大教授・白井氏が、近年の研究や対外援助の潮流を踏まえ、マクロ経済学上の開発の問題について論点をまとめた本。この分野における近年の研究者や世界の援助機関の考え方について手っ取り早く勉強しようと思えば、日本語の文献の中ではこの本が最適。今後も定期的に改訂が加えられることを希望。

 第3章「開発援助がもたらす5つのマクロ経済問題」は、配慮に欠ける開発援助がいかに対象国のマクロ経済学に影響を与えるか、理論的な説明を与えている。①援助が供与されることで政府の国内歳入の徴収努力を損なうこと、②政府の歳入変動を激化させることで景気変動を拡大すること、③援助資金を経済成長に必要な分野に配分せず非生産的な分野に支出すること、④実質為替レートの増価により輸出産業を停滞させること、⑤対外債務の累積により経済成長を低迷させること。「最初の4つのマクロ経済問題については、借款のほうがグラントと比べて問題が発生する可能性が低い」とも。一国に投じられる援助がどのように当該国のマクロ経済に影響するか、実際のところ計量的に分析することは難しいが、少なくとも理論上は上述の5つの問題が想定されることを、援助実施者は十分理解しておく必要がある。

 第5章「ミレニアム開発目標と最近の援助戦略・資金調達案」では、米国のミレニアム・チャレンジ・アカウント(MCA)や英国のインターナショナル・ファイナンス・ファシリティ(IFF)など、最近の主要各国の援助戦略の動向についても触れられており、参考になる。

 第6章「日本のODA政策と課題」では、先行研究をふまえて、白井氏独自の援助対象国選定基準が記されており、興味深い。ガーナやタンザニアマダガスカルウガンダブルキナファソなど経済・財務・政治リスクの低い国に対してはただちに援助額の増額を行うべきとする一方、「汚職リスクが高い国に援助を供与する場合には、受益国政府に対して援助額をただちに増額するのではなく、技術協力や政策対話を重視するのが望ましい。そして、援助は受益国政府を対象とするだけでなく、これらの国の基礎教育・保健医療や貧困削減に取り組んでいる市民組織やNGOへの支援を強化することで、効果的に貧困削減をもたらす対策の検討に努める」、としている。

有斐閣、2005年)

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