Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

クワメ・エンクルマ 『新植民地主義』

 ガーナ初代大統領クワメ・エンクルマは、前回紹介した『祖国のための自伝(http://blogs.yahoo.co.jp/s061139/33097418.html
)』を含む6冊の本を著しており、本書は4冊目にあたる。本書では、アフリカ諸国に君臨する欧米巨大資本の経済的支配の実態が描かれる。

 エンクルマのいう「新植民地主義」は、以下の体裁をとる:「多くの場合、新植民地主義的支配は、経済的もしくは金融的手段を通じて行われる。新植民地主義下の国家は他の国家からの競争的生産物を排除して、帝国主義国の工業製品を受け入れざるをえない。新植民地主義下の国家の統治政策に対する支配は、その国家をまかなう費用を支払うことによって、政策を左右できる地位に文官を置くことによって、また帝国主義国が支配している銀行制度の設置を通じての外国為替に対する金融的支配によって、確保される」。新植民地主義者が要求する権益としては、「土地利権、鉱物及び石油の探査権、関税徴収「権」、行政をおこなうこと、紙幣を発行すること、在外企業のために関税および租税を免除すること、そしてとりわけ、「援助」を与える「権利」、文化の領域での特権」などが挙げられるそして、「低開発世界は、発展した諸国の好意あるいは寛容によって開発されることはない。低開発世界は、それを開発しないでおくことに既得利権を有している外部勢力に対する闘争によってのみ開発されるのである」としている。

 『祖国のための自伝』で見せたようなガーナの発展と安定を願う若き政治家としての姿とはうって変わって、本書では、欧米諸国の政府・企業に対する明らかな敵意を持った活動家としての側面が見て取れる。訳者の野間氏によれば、エンクルマ政権の「七ヵ年開発計画」及び「ボルタ河計画(アコソンボダムの建設等)」は、(当時のガーナの最大輸出品目である)ココア独占体による市場操作や、「本書『新植民地主義』が出されたことを理由に、『援助』供与の拒絶のほのめかしさえ行った」アメリカからの圧力等によって脅かされることになった。独立は手にしたものの、欧米諸国政府・企業の政策・方針によって自国の経済が危機に瀕することがありえるという事実は、エンクルマ氏を大いに憤らせた。
 しかし冷静に考えてみると、ガーナを含め独立直後のアフリカ諸国にとって、生き馬の目を抜く国際資本主義経済にいきなり自らを組み込ませることは、自らの対応能力を超えた無謀な挑戦であったのではないかとも思う。コンゴ民主共和国独立時のベルギーのように一夜にして行政官をいっせいに引き上げるようなことはしなかったものの、旧宗主国の英国もまた、政治的独立を承認こそすれ、ガーナ人行政官や技術者の育成やインフラ整備をじゅうぶん行ってきたかと問われれば、必ずしもそうではなかった。多くの国で独立からはや半世紀近くが経過したが、この独立以来のハンデを乗り越え安定した経済運営を実現させた国は少ない。現在、中国やインドからの投資を梃子にようやく低成長の罠から脱しつつあるものの、アフリカ諸国に訓練された労働者と技術、そして資本が「蓄積」されるのは当分先のことだと考えられる。

 エンクルマ氏は、ガーナ独立以降中央集権式の社会主義経済を志向したものの、財政上の困難を招き、クーデターによって1966年に国を追われることになった。以降は、旧宗主国の「新植民地主義」への反駁と、対抗軸としてのパン・アフリカニズムの理論的支柱として、1972年に没するまで亡命先のギニアを中心として活動を続けることになる。

(邦訳:家 正治、松井 芳郎 訳、理論社、1971年
 原著:Kwame Nkrumah "Neo-Colonialism; The Last Stage of Imperialism" 1965.)