Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

チヌア・アチェベ 『Things Fall Apart』

 19世紀後半、白人の植民地支配に抗うナイジェリア・イボ族の男の生きざまを描いた、「アフリカ文学の父」アチェベの代表作。学生時代の英語の授業の課題図書として読んで以来8年ぶりに手にとってみた。

 主人公は、冒頭「His fame rested on solid personal achievements. As a young men of eighteen he had brought honor to his village by throwing Amalinze the Cat...」から始まるように、肉体的・精神的な強さで一門に名を知られた男・オコンクォ。自由奔放に生きた父への反発からか、一族の秩序と規律、そして伝統を何より重んじる。家族にも恵まれ、名誉も手にした。しかし、伝統的な宴の席で銃が暴発し同胞を誤って殺してしまったところから、彼の人生に狂いが生じていく。
 彼に課せられた罰は7年に及ぶ流刑だったが、その間に故郷の地には白人の伝道師が入り、一門の中には部族の伝統を捨ててキリスト教の信仰に走る者が現れた。近隣には英国より行政官が派遣され、植民地政府による統治が徐々に強められる。彼が故郷の地に戻ったときには、かつての秩序と部族の伝統は見る影もなかった。教会を焼き討ちした罪で仲間とともに拘留されたオコンクォ。釈放された日の夜、彼はある決意を固める:「"Worthy men are no more," Okonkwo sighed as he remembered those days..."The greatest obstacle in Umuofia," Okonkwo thought bitterly, "is that coward, Egonwanne...Tomorrow he will tell them that our fathers never fought a 'war of blame.' If they listen to him I shall leave them and plan my own revenge."」翌日の集会で、一門にもはや戦う気がないことを知ったオコンクォは、集会を止めにきた役人を山刀で両断、そして自ら命を絶つ。物語は、彼の遺体を回収した英国人の地方長官が執筆中の本について熟考するシーンで終わる:「He had already chosen the title of the book, after much thought: The Pacification of the Primitive Tribes of the Lower Niger.」

 主人公のオコンクォはどこまでも不器用である。作中には、英国が持ち込んだ宗教や貨幣経済、西洋式の教育に適応していく地元民の姿も描かれている。しかし、部族の伝統的な秩序の中で名誉に浴してきたオコンクォには、それが我慢ならない。前述の「Worthy men are no more(尊敬に値する男はもういない)」というセリフに、彼の苦悩が凝縮されている。植民地支配がナイジェリアの人々にもたらした新たな価値観は、彼の業績と自尊心を不要なものとみなした。簡潔で衝撃的な結末は、あまりに不器用な彼の生き方をそのまま体現している。

(原著:Chinua Achebe, 1959.
 邦訳:『崩れゆく絆―アフリカの悲劇的叙事詩』古川 博巳 訳、門土社、1977年)

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