Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

保阪 正康 『あの戦争は何だったのか 大人のための歴史教科書』

 こちらも2005年のベストセラー。特に若い世代にとって、知っているようで意外と知らない太平洋戦争の「仕組み」をざっくり教えてくれる。

 統帥権統治権、軍令と軍政、大本営参謀本部、軍令部、恩賜の軍刀。耳にしたことはあるものの、正確な定義を知らない方は多いのではないか(自分もそうでした)。参謀本部・軍令部の中にあって実際に軍を動かし戦略を決定していたのは、それぞれ20名程度の幕僚からなる「作戦部」。陸大、海大の成績で一番から五番までしか入れないという暗黙のルールもあった。

 本書で、「戦争ありき」で開戦したものの出口戦略に欠けた当時の指導者たちに対し、保坂氏は大いに憤っている。「私は、この戦争が決定的に愚かだったと思う、大きな一つの理由がある。それは、『この戦争はいつ終わりにするのか』をまるで考えていなかったことだ。」「資料に目を通していて実感した。軍事指導者たちは『戦争を戦っている』のではなく、『自己満足』しているだけなのだと。」
 以前、太平洋戦争当時の軍令部のメンバーが戦後35年たって開いた「海軍反省会」の音声記録をまとめた「NHKスペシャル」があり、興味深く観たのを覚えている(http://www.nhk.or.jp/special/onair/090809.html
)。開戦に及ぶにあたり、彼らの頭の中では、戦争の正統性・妥当性にかかる明確な根拠や冷静な判断よりも、海軍の予算や組織といった「官僚」としての既得権益や、陸軍や他組織と比べるなかで海軍としての面子・プライドのほうが優先されていた。「まさか」と思いながらも、現に当事者たちが赤裸々に語っているのだから、信じるほかない。彼らの行動原理は、既得権益や面子を重んじる現代日本の官僚や政治家となんら変わるところがなかったのだ。良い意味でも悪い意味でも、彼らも官僚であり、そして人間だったのである。

 小学校でも中学校でもそうだが、近代日本史を学ぶとき、太平洋戦争の教訓として当たり前のように「反戦・平和」が語られるけれど、どうして日本が戦争に突入したのか、何で戦争を回避できなかったのか、あまり深堀りしないように思う。石油ルートを絶たれた、軍部の力が強くなりすぎた、恐慌があった、さまざまな理由が挙げられるが、実際に戦争を動かしていたメカニズムについてはあまり触れられない。当時の軍部にどういう人たちがいて、どういう考えをもって戦争に至ったのか、もう少し詳しい共通理解を皆が持つようにしないと、いつになっても日本の歴史は本当の意味で前進しているとは言えないのではないか。保坂氏は、「戦争の以前と以後で、日本人の本質は何も変わっていない・・・ひとたび目標を決めると猪突猛進していくその姿こそ、私たち日本人の正直な姿なのだ」、と冷徹に締めくくっている。

新潮新書、2005年)


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