Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

クラウス・ブリンクボイマー 『出口のない夢 アフリカ難民のオデュッセイア』

 ドイツ人の著者が、かつてガーナからヨーロッパに移住した経済難民・ジョンとともに、当時の足跡をたどるルポルタージュ

 5年ほど前に西アフリカに住んでいたとき、「生活に窮して小舟でヨーロッパ大西洋に向けて出発し、消息を絶つアフリカ人の数が増えているらしい」と人づてに聞いていた。とはいえ、西アフリカ各地の経済と雇用があまりに厳しいとはいえ、水と米を積んだだけの小舟に乗って国を発つ人々の心中が、当時の自分には正直よく理解できなかった。
 しかしながら、2006年にドイツで出版され今年ようやく邦訳が出たこの本を読み、自分の勉強不足・想像力不足を改めて実感した。サハラ砂漠を越えるトラックが集まるニジェール・アガデスのバスターミナル。モロッコ・スペイン国境で立ち往生した経済難民が作るキャンプ。スペインへの密入国を手配するブローカーが集まるカサブランカ。そしてヨーロッパにたどり着きながらも、いつ強制送還されるか分からない不安に苛まれる日々を送る、「夢」を果たしたはずの人々。本書は、年数万人とも言われる西アフリカの経済難民の苦悩と現実を、圧倒的なリアリティをもってまざまざと映し出す。

 「夢」を果たしたはずのナイジェリア生まれのジョイ。「村では多くの死者が出た、とジョイは言う。あるときは彼女の部族が優勢になり、またあるときは別の部族が力を得た。将来の展望はまったくなかった。『アフリカ人はわけもなく自分の大陸を見捨てる、とでもヨーロッパ人は思っているの?』」
 中国による直接投資をテコにようやく低成長の罠から脱しつつあるといわれているアフリカ。しかし、経済成長の恩恵が社会の隅々まで行き渡るにはまだまだ時間がかかる。そして、不正に腐敗、権力の私物化といったお決まりの障害物。生まれた場所が「アフリカ」というだけで、かくも厳しい現実が突きつけられる。

(原著:Klaus Brinkbaumer "Der Traum Vom Leben Eine afrikanische Odyssee." 2006,
邦訳:渡辺 一男 訳、2010年発行、新曜社


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