Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

真山 仁 『ハゲタカ』

 1990年代末の日本を舞台に、外資投資ファンド社長の鷲津が、バブル崩壊以後の苦境にあえぐ金融機関・地方企業を相手に企業買収・再生を仕掛けていく経済小説。『ベイジン』が面白かったので、真山氏の代表作といえる本作を出張先に持っていって、帰りの機内で読んでみた。
 『ベイジン』の項でも触れたが、同氏の小説はテンポが速く小気味よく進むのが良い。人物描写も簡潔で、荒削りかと思わせられる反面、全編通じて読むと各人物の個性がはっきりにじみ出て分かる。読み始めた当初は実直な邦銀バンカー・茂野に共感させられる場面が多いが、メガバンク幹部に「あながたが持っている限り、その石(再生可能な企業の債権)は、ただの瓦礫に過ぎない」と言い放つ投資ファンドの雄・鷲津の悪役ぶりが後半とみに際立ち、痛快である。外資ファンドを題材にした小説は数多いが、この作品が群を抜いて面白いのは、このあたりに理由があるのかもしれない。
 ただし鷲津は単なる悪役というわけではない。「人は、正義のためやったら死ねるんや」「このど阿呆な国、全部買うてしもうたるわ」という父親が遺した言葉、怨念にも似た信条を胸に、バブル崩壊のツケを取ろうとしない政府・金融機関・赤字企業の間隙を縫って日本を立て直す、正義のヒーローのような役回りを与えられている。現実の日本経済は、既に「失われた20年」を経験し、なお混迷の途にある。混迷を混迷としっかり認識し、灰燼のなかから教訓を汲み取り未来につなげる意志と知力が、今の日本にあるか。

講談社文庫、2006年)


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