Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

杉山 茂樹 『4-2-3-1 サッカーを戦術から理解する』

 日本中が熱狂した、サッカーW杯南ア大会日本代表の挑戦が終わった。パラグアイ戦の結果には色々と思うところあれど、国外のW杯で初めてベスト16・PK戦にまでもつれ込むという輝かしい実績を作った選手達をまずは讃えたい。
 今大会の日本代表は、大会直前に戦術を大きく変えた。初戦のカメルーン戦、本田選手が1トップに座る「4-3-2-1」の布陣を見て、思わずうなった玄人衆も多いのではないか。前線でボールをキープする本田、サイドから崩す松井、前がかりでボールを配する遠藤、中盤の底でアンカーとして機能する阿部。生き生きと動く選手の活躍を通じて、「苦肉の策」は「妙手」へと転じた。

 サッカーは、個人のタレントや美技もさることながら、各チームの戦術・布陣を解することで、その面白さをより存分に味わうことができる。ジャーナリストの杉山氏が書いたこの本は、標題になっている「4-2-3-1(1998年W杯フランス大会、フース・ヒディンクのオランダが用いて世界の注目を集めた)」をはじめとして、サッカーの基本的な布陣や、戦術が紡ぐサッカーの醍醐味を、W杯や欧州CLの過去の名勝負を紐解きながらエッセイ形式で紹介する。

 本書を通じて杉山氏が強調するのは、サイド攻撃の大切さである。「真ん中の守備は固いだろ。それに引き換えサイドは薄い。単純な理屈だよ」というクライフの弁を借りる。06-07シーズン欧州スーパーカップでD・アウベスに再三の攻め上がりを許したロナウジーニョを評するオシムの弁も、含蓄に富んでいる:「ロナウジーニョのような最高級の選手と向かい合うことは、思いのほか楽なことなのだ。対峙する選手が攻め上がれば、おそらく彼は、途中から追いかけてこなくなるだろう。その瞬間、攻撃側には数的優位な状況が訪れる。万が一追いかけられても、ロナウジーニョには疲労が溜まることになる。そのうえ、自分の目指すべきゴールから80mも離れた地点にいる。そこでボールを持たれても怖くない。もはやロナウジーニョはスーパースターではない。死んだも同然の選手になる。」
 また杉山氏は、日本代表について「ゴール前で、決定力のないフォワードに、難易度の低いシュートをいかにしたら決めさせることができるか。そこに英知を傾ける必要がある」と言い、「2007年9月に行われたスイス遠征で初めて召集された松井大輔の出現は、そういう意味でオシムジャパンに収穫をもたらしたといえる。サイドアタッカーと中盤選手の要素を50対50の関係で持ち合わせている彼のようなタイプを、今後、どれほど発掘、育成することができるか。決定力不足のカギは、この点にかかっている」と述べている。まるで今回W杯での松井選手の活躍を見越したかのようである。

光文社新書、2008年)

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