Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

根本 橘夫 『人と接するのがつらい 人間関係の自我心理学』

 人間好不調の波はあるもので、自分も「人と接するのがつらい」ときがたまにある。昨年そんな時期に書店で見かけて手にとったのがこの本。なぜ人と接するのがつらいのか、人と楽に接するためにはどうすれば良いのか、心理学の知見とカウンセラーとしての経験をもとに丁寧に説明してくれる。

 根本氏のメッセージは明確:「自然な自分自身を生きることこそが、安心と救いをもたらす道なのです。人と接するのがつらいという性格を変えることにエネルギーを費やすのではなく、ただ素直に自分であることに関心とエネルギーを向け直すことです。」
 本文の前半で、人と接するつらさの理由について、幼少時の心理形成分析をメインに据えながら述べてゆく。たとえば、幼少時の心理形成過程で意識的・無意識的に心の奥深くに埋め込まれてしまう「禁止令」(「子どものように楽しんではいけない」「みんなの仲間入りをしてはいけない」「自然に感じてはいけない」など)がある。この禁止令から抜け出す努力をするのではなく、禁止令に囚われている自分の行動をさしあたり意識していれば良い、と言う。見栄や体裁に囚われがちな性格の根底には、自己価値観の希薄さがあり、これは成長する過程で自分で作り上げることが可能で、自分とぴったりという自分のあり方に戻ることが、自己価値(本当の自分と実感できること、これが自分だと感じられること)の追求につながる、とも。
 生まれついた性格は容易に変えられないとしながらも、人と自然に接してゆくためのヒントとして、あるがままの自分を受け入れ好きになること、自分を素直に表現すること(主張行動)など、シンプルながら重要なポイントを、著者の自身の経験・カウンセラーとしての経験を交えながら挙げている。

 似たような本が数多あるなかで、合理的・具体的に問題の背景と改善策を提示してくれる点において、この本はかなりの良書だと思う。対人関係に悩む読者の立場に寄り添って、少しでも状況の改善をアシストしたい、という著者の思いやりが行間から滲み出ている。初版は1999年だが、10年以上経った今でも内容はまったく古びていない。

(文春新書、1999年)

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