Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

東野 圭吾 『白夜行』

 飛行機に乗り込む前の成田空港の売店でふと眼にした分厚い文庫。昨年末に読んだ『容疑者Xの献身』で思わず「やられた!」と思わされた東野氏の作品ではないか。しかも以前、綾瀬はるかが主演していたドラマ(最終回の最後10分だけ見た)の原作本ではないか。そんなわけで購入、機内で読了。
 
 東野氏の作品のなかでも「傑作」と言われるだけあって、ぐいぐい読ませる。ただし、読後感は重たい。幼少時の過酷な経験から金銭的成功に全てを賭ける雪穂と、小判鮫のようにひっそり寄り添い手段を選ばず雪穂を守る亮司。彼らの行動原理の謎が明かされるのは、文庫860ページのうち最終章の846ページ目に差し掛かってから。読者はそれまで、全編を通じて二人の心理描写は一切なされず、彼らの行動や彼らに関わる人々の顛末(大体不幸な結末が待っていることが多い)を通じて推測するしかない。唯一、雪穂の口から語られる「あたしの上には太陽なんかなかった。いつも夜。でも暗くはなかった。太陽に代わるものがあったから。太陽ほど明るくはないけれど、あたしには十分だった。あたしはその光によって、夜を昼と思って生きてくることができたの」という言葉が、二人の悲愴な関係を映し出すのみ。
 
 もし仮に、幼い頃の雪穂や亮司のような過酷な運命が、現実の自分に降りかかっていたとしたら。社会や他人をまったく信じることができず、本当に亮司のような冷酷な人間になっていたかも。人は、経験しだいで、何にでもなれるのだ。機内食を食べながら、そんなことをぶつぶつ考えてしまった。上質なミステリーをお探しの方に。傑作です。
                                                                     (集英社文庫、2002年発行)
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