Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

武田 鉄矢、小山 ゆう 『お~い!竜馬』

 世は坂本竜馬ブームである。今クールの大河ドラマ龍馬伝』も好評を博しているようだ。薩長連合、大政奉還海援隊。龍馬の残した功績は日本史上に燦然として輝き、司馬遼太郎をして「維新史上の奇跡」と言わしめた。閉塞感を感じるこの時代、多くの日本人が龍馬の活躍に憧憬の念を覚えるのは無理なきことである。

 さて、近代日本における坂本竜馬の人物像は、司馬遼太郎の『竜馬がゆく』によるところが大きいといわれるが、自分のような漫画世代の中には、この『お~い!竜馬』で描かれる奔放な竜馬の姿が思い浮かぶ人も多いのではないかと思う。「ヤングサンデー」誌に連載当時はNHKでアニメ化もされており、知名度は高い。
 幼少時にアメリカ人との出会いがあったり、脱藩後すぐに上海を訪れたり、史実と異なる点も多くあるが、己の技量と人脈で大事を成し遂げる英雄譚は、それだけで強く印象に残る。小山氏が描く線には力があり、読み手を感情移入させるには十分である。薩長連合を成すため薩摩と長州を懸命に説得するシーン。かつての友・武市や以蔵の訃報に接し涙するシーン。仇敵である後藤への怒りを抑え大義のために手を組むシーン。それぞれの場面で見せる竜馬の立ち振る舞いに、思わず背筋がゾクゾクしてしまう。

 この漫画を読んでいて「やっぱり竜馬すごいな」と思わされるのは、その「知・徳・体」のレベルの高さ、とくに「徳」である。「知」については、当時の武士にしては珍しく世界情勢や経済に通じ、合理的なものの考え方を身につけていたことからも分かるとおり、融通無碍な知識吸収力は群を抜くものであったに違いない。「体」については、北辰一刀流の免許皆伝を得、喧嘩にも強く、あまたの修羅場を身一つで生き抜いてきた。そして「徳」。周りの人間をなごませ、笑わせ、惹きつけ、巻き込んでゆく。敵方のはずの幕府にも、勝海舟大久保一翁といったメンターがいた。土佐でも長州でも薩摩でも長崎でも、竜馬の下に集まる人は絶えず、結果として薩長連合や大政奉還といった「誰もが不可能と思った」大事を成し遂げてゆくに至る。

 司馬遼太郎の『竜馬がゆく』は、文庫本で計8巻、いかんせん読破するには時間がかかる。「時間がない」とお嘆きの方には、ぜひこちらの『お~い!竜馬』をおすすめします。当方も今年に入ってから思わず文庫版を全巻大人買いしてしまいました 笑。

                                 (小学館文庫、2003年、14巻完結)


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