Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

羽海野 チカ 『3月のライオン』

①本の紹介
 『ハチミツとクローバー』の作者が、孤独を抱えた17歳のプロ棋士・桐山零の日常と、近所の川本家三姉妹ら周りの人々との交流を描く。

②印象に残ったパート
 第2巻、不器用な零の生き方が、後輩の野球少年・タカハシ君に共感を得る:「ピンチのときによく監督に『自分を信じろ』って言われるんすけど でも自分の中にちょっとでも『逃げたり』『サボったり』した記憶があると「いや・・・だってオレあのときサボったし・・・」って思っちゃってそれができないんです」「そういうの、失くしたかった・・・ってことですよね。」
 第3巻、零を支えるひとり、高校の担任・林田先生が、一人きりでもがく零を見かねて「あのな、大事なことだぞ?」「一人じゃどうにもならなくなったら誰かに頼れ」「でないと実は誰も、お前にも頼れないんだ。」

③読後の感想
 『ハチミツとクローバー』を借りた同僚からこちらも借りて読んでみた。現在3巻まで発行中で、物語はこれからまだまだ続いていきそうな気配だが、早くも『ハチミツとクローバー』以上にはまってしまった。
 世の多くの人々は、不器用でコミュニケーション下手な主人公の零に自分自身のどこかの部分を少なからず重ね合わせて、このマンガを読んでしまうのではないだろうか。零の過酷な生い立ちや過去が少しずつ明らかになるにつれて、そして零が周りの人々に少しずつ心を開いていくにつれて、雪が春になって少しずつ融けていくように、物語も少しずつ温かみを増していく。また、零の心をかき乱す義姉・香子とのやり取りや、息の詰まるようなライバル達との棋戦のシーンが、ちょうど良い緊張感を作中に漂わせ、物語全体のバランスを取っている。
 きっとこのマンガも、『ハチミツとクローバー』のように、完結するときは箱庭がそっときれいに完成するような感覚を味わうことになるのだろう。その瞬間が待ち遠しいような、待ち遠しくないような。


                             (2009年12月時点で3巻まで発行、白水社


https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/F/Foomin/20190829/20190829194521.jpg