Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

堤 清二、三浦 展 『無印ニッポン 20世紀消費社会の終焉』

①本の紹介
 セゾングループの経営で知られる実業家・堤清二氏とマーケティングアナリストの三浦氏(かつてセゾングループに所属)による、消費の未来や日本の将来についての対談集。

②印象的に残ったパート
 三浦氏は「堤清二最大の功績である『無印良品』のコンセプトは、シンプルな暮らしであり、『これがいい』ではなく『これでいい』という一種無欲な商品を作ること」「この金融危機によって日本人の消費意識が、『あれがいい』『これがいい』『みんな欲しい』という物欲主義から、『これでいい』『これで十分だ』という無印良品的価値観に急速に変わっていきそうな予感がします」という。本書のタイトルも、この消費性向の変化を見透かすように、『無印ニッポン』。
 堤氏、「無印良品」ブランドの本質を評して:「アメリカ的豊かさ(便利性と浪費性・贅沢性)の追求とファッション性の追及という、この二つの大きな「体制」に対して、アンチだったわけです」「では、無印良品は何を訴求したいと思っていたかと言うと、それはただ一点、消費者主権なんです」「ここまでは用意します、あとはあなたがご自分で好きなように使ってください、という、そういう意味での消費者主権。」
 かつて西武百貨店労働組合設立にも尽力した堤氏は、「基本的人権のかなりの部分を占める労働権という問題については、世界中にコンセンサスがある」「日本の財界人は、労働権を本質的には認めていないと言っていい」「いま始まっている世界恐慌的な変化の中で、日本の場合は、経営者の意識が、明治時代に戻ってしまっているのではないでしょうか。意識が戻るなら、年功序列や終身雇用も同時に出てくればまだ救いがある。ところがこれらのことは落として、強圧的な労働者対応という意識だけが戻っている」と危機感を募らせる。
 また「高校全廃論者」の三浦氏は、特定の目的なく普通高校に通う学生が多いことについて「高校に投入している(税金の)200万円をその人にあげれば、ネール・アーティストでも美容師でもいいから専門技術を学べるんです。意欲があれば調理師と美容師、両方の資格をとってもいい。四年間通って、四つくらい資格を取れば、世界中どこに行っても食いっぱぐれない。」「実際いま、日本中どこでも仕事があるのは、介護士と薬剤師とキャバクラ嬢くらいですよ(笑)」と持論を展開する。
 
③読後の感想
 国内最大手流通グループのかつてのトップと当代きっての消費社会研究家。常に時代の流れの先端を見つめる二人が率直に意見を戦わせると、こんなにも面白いのだ、と素直に感じた。「無印良品」型の消費性向への変化、という切り口もさることながら、教育や労働など日本の社会制度のこれからのあり方について自由闊達な意見が述べられている。三浦氏の著作はいくつか読んだことはあるが、堤清二氏の発言・著作に触れるのは初めてで、日本の財界にもかつてこういう考えの方が居たんだ、と新鮮な気持ちにさせられた。三浦氏の「高校全廃論」については無理な点も多いと感じるが、日本全体として職業訓練への政府補助がもっとあって良い、というのはその通りと思う。
 といいつつも、確かに自分も含めて周りの同世代の連中を見ていると、過剰な物欲はあまりなく、良く言えば「足るを知る」人間が多いと思うし、日用品や家具や文房具も普通に無印良品で買うし、「これがいい」から「これでいい」への転換、というのは、言われてみれば至極当たり前なことのような気もする。そしてその中でも、機能性の高いユニクロヒートテックや、ジュークボックスを携帯化させたアイポッドや、燃費の良いプリウスインサイトなど、時代の要請に合った暮らしをより豊かにする製品群は、確実に売り上げを伸ばしている。案外、当たり前のことを正面切って論じただけの本、なのかもしれない。
                            
  (中公新書、2009年発行)


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