Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

ジャック・ケッチャム 『隣の家の少女』

①本の紹介
 米国ホラー界の奇才が、実在した事件をもとにつづるサスペンス小説。主人公ディヴィッドの隣のチャンドラー家に引き取られてきた少女メグが、チャンドラー親子によって虐待・死に追い込まれていくさまを、傍観者としての視点から精緻に綴っていく。

②印象に残ったパート
 チャンドラー家での折檻に耐えかねてメグは地元の警官・ジェニングスに直訴するも、たいした捜査もなく彼はチャンドラー親子に追い返されてしまう。デイヴィッドをはじめとする近所の子どもたちは、「じつのところ、わたしたちはほとんどメグに腹を立てていた。ミスター・ジェニングスに助力を求めて失敗することによって、メグはわたしたち全員の顔に、子どもは徹底的に無力である、という厳然たる事実を投げつけたのだ」と感じる。問題の本質を取り違えていることは明らかだが、この点を指摘する大人はおらず、チャンドラー親子による虐待はさらにエスカレートしていく。
 出会った当初、主人公である傍観者の少年・ディヴィッドはメグに好意を抱いていた。地下室の柱に縛り付けられたまま監禁されているメグに対し、チャンドラーに悟られないよう知恵を働かせながら、彼女を柱につなぐロープを緩めるディヴィッド。「自分は頭が切れるし高潔だと感じ、興奮していた。わたしはメグをたすけたのだ。いつの日か報われることだろう。いつかさわらせてくれるにちがいない」「わたしは正気をうしなっていた。狂っていたのだ」現状に対する嫌悪感とメグへの恋心がごちゃまぜになった、倒錯した心理状態。この経験は、ディヴィッドの生涯に暗い影を落とすことになる。
 
③読後の感想
 人間は、どうしてこのような残虐な行為に走ることができるのか。メグへの虐待の様子を仔細に追っていくことで、何の変哲もない少年少女であっても、ほんの些細なきっかけと周囲の大人の扇動や無関心があれば、たやすく他者を傷つけその人の尊厳と人生を奪ってしまえる「闇」を有していることが、この本を読めば分かる。
 日本でもかつて、女子高生を拉致監禁・集団暴行・殺人のうえコンクリートに詰めて遺棄した事件や、若い男性を集団で連れまわしてあちこちで借金をさせたうえ暴行・殺害、山中に埋めた事件など、陰惨極まりない事件が起こり、大きな社会的関心を呼び起こした。かような事件は、決して遠い他の国の遠い出来事ではなく、私たちの社会の中でも身近に存在しうるのだ。そんな寒々しい事実を思い起こさせてくれた。
 なんともいやな読後感が残ることは否めないだけに、興味本位で本書を手に取ることはあまりお勧めしない。

(原著:Jack Ketchum, "The Girl Next Door." 1989.
 邦訳:金子 浩 訳、扶桑社、1998年発行)


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