Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

平野 克己 『アフリカ問題 開発と援助の世界史』

1. 本の紹介
 『図説アフリカ経済』等で知られるアジア経済研究所の平野氏による新刊。開発経済学政治学の視点から、2009年現在のアフリカ問題の深層と、あるべき開発援助事業の姿について提言する。

2. 印象に残ったパート
 第3章「アフリカ農業とリカードの罠」、「農業をめぐるアフリカと非アフリカ開発途上国とのもっとも重要な差は、なによりも政府の政策の違いにある。アフリカにいる殆どの自給穀物農民には、技術選択の機会が与えられていない」、と平野氏は言う。アジアで起こったような近代農業革命/技術革新には、現場での努力に加えて、公的な専従機関と予算が必ず必要、というのがその意図するところ。
 第4章「農業と工業を結ぶ貧困の連関」、アフリカにおけるフォーマルセクター製造業の高賃金の理由を「経済成長率が低いがゆえの(労働者一人当たりの)資本装備率の高さと、低投入低収量農業がもたらす食糧価格の高さが低雇用高賃金現象を現出させている」と結論付ける。この前提に立てば、食糧生産の向上が製造業振興にとっても重要であることがわかる。
 第5章「アフリカの成長反転」、2003年以降アフリカ諸国は経済成長のスピードを早めているが、平野氏は「鉱業部門における生産の増加によってもたらされているが、そのための投資は国内ではなく国外から入ってきたFDIが担っており、そしてその果実はもっぱら消費に向かっている」、「この消費爆発が鉱業部門以外へのFDIをひきよせ、また外国企業がもちこむ新しい商品が消費意欲を刺激している」、とその全体図を描いてみせる。
 第6章「アフリカ問題の新しい展開」は前章までの議論を踏まえた政策提言だが、平野氏はODA事業においても「カウンターパートの選定や事業目的の特定、実施手順や方法論といった事業設計」を最重視すべし、ひいてはODAの政策化につなげるべき、と説く。同氏の頭の中には、2006年にWFPが民間保険会社と結んだエチオピアを対象とした天候デリバティブ契約、2006年にDFIDが南アと合意した低所得農民を同国のスーパーマーケット企業の商品調達リストに載せ2010年までにその調達率を30%にまで引き上げることを目指す技術協力、といった「ODAイノベーション」の事例がある。
 また、アフリカにおける肥料価格が高いことを踏まえて「良質なリン鉱石が賦存するウガンダでこれを肥料に加工できれば、国内需要のみならず周辺諸国を市場にできるだろう」、とも。

3. 読後の感想
 最近の日本人が書いたアフリカ本の中では、もっとも正確に現在のアフリカの低成長・貧困の問題の本質を突いている、と思う。農業の低生産性の理由、製造業における高賃金の理由、市場の需要側や官民協働を見据えた援助事業のあるべき姿、など。これらの問題について勉強したい人は、まずこの本を手に取るべき。当方、恥ずかしながら第6章のDFID事業の情報はこの本を読むまで知らなかった。
 情報の鮮度も、2009年時点のもので、中国のアフリカ戦略等にも触れられており、新しい。


(2009年11月発行、日本評論社


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