Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

堀田 力 『堀田力の「おごるな上司!」人事と組織の管理学』

 もと法務省大臣官房人事課長、官房長などを歴任した弁護士・堀田氏による企業・官庁の管理職向けの警句集。発行は1994年だが、内容はまったく古びていない。いつの世も上司にとっての部下マネジメントは悩ましい課題であることを、教えてくれる本。

1.「作るのはむずかしいが、けちをつけるのは簡単」
 「自分が100の仕事をすることと、他人の90の仕事に対し10の不足を指摘することとは、おのずから難易度が異なります」、と堀田氏。自分も、今の会社で年次を経るにつれて同僚や後輩の作った文書を見る機会も増え、徐々にこのことが分かってきた。堀田氏は、検事正だったころ「口出ししなくなるのは、あがってくる決裁書類をみるからである。見なければいい。見るのをやめてしまおう」と思い、よほどの重要事件でない限り決裁をやめ、判断を現場の検事たちに任せるようになった、とのこと。この域に達するのはまだまだ時間がかかると思うが、「要するに、決裁する立場の人は、他人の足りない点をあげつらう前に、そこまで仕上げるのにどれだけの苦労があったかをわかってあげることが大切」。

2.「独善的でやる気のある上司より、まだ無能でやる気のない上司のほうがよい」
 後者が組織にとって少なくともマイナスにはならないのと比べて、前者はときに組織をマイナスの方向に導くことがある、というのが堀田氏の考え。前者は「部下を鋳型にはめて、それにはまらない部下をダメにしてしまう」、とも。優秀な人が、必ずしも良い管理職になりえない、ということを、うまく言い換えた言葉。

3.「上司は、よほど心がけていないと、若い人の意見を聞くことはできない」
 もちろん人と場合によるものの、概して言えば、確かに上司は部下に対してよくしゃべりがちな一方、部下は信頼できる上司にしか多くを語らないもの。「なにも、若い人を飲み屋に連れて行く必要はありません。職場において、若い部下に、『このひとならぼくらの意見を虚心坦懐に聞いてくれる』と思わせるおうに持って行くことが重要」とは、何も管理職に限らず、職場で後輩を持つ若手・中堅の組織人すべてに通じる格言。

                           (1994年発行、日本経済新聞社