Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

ジェラルド・カーティス 『政治と秋刀魚 日本と暮らして45年』

 
 日本の政治・外交、日米関係を専門とするコロンビア大学教授カーティス氏による新著。同氏初の日本語での著作。40年以上に及ぶ日本との関わりを通じて、同氏が日本の政治や外交について考えたことがコンパクトに盛り込まれた単行本。
 ある個人や集団が第三者によって長い期間をかけて観察されるとき、当事者自身による分析よりも客観的かつ本質を突く分析が生み出されることがままありますが、この本もその好例。米国を代表する日本政治学者が、日本の政治や日本人をどう捉えているか、示唆に富む内容です。
 

1.小選挙区制に見る日米の違い

 カーティス氏によれば、アメリカにおいては、人種や宗教を代表する多様な価値集団が政党の名のもとに連合を組んで影響力を発揮し政治の安定を確保する一方、民主党共和党が追求する利益の間に差異があることから、政治的競争のダイナミズムが確保されている。一方、ほぼ単一の民族が住む日本における小選挙区制に対し、「多元的な価値観はあるものの、その違いは白か黒かというよりも、グレーの色合いが濃いか薄いかという違いであることが多い。・・・日本のような社会に小選挙区制を導入すると、政党が過半数を得るために必要とする社会連合は似たり寄ったりになる」という弊害を指摘している。
 現在の自民・民主両党の政策的距離の近さを見るに、二大政党制による民主主義の深化を目指した小選挙区制導入当初の目論見は完全に達せられたとは言いがたい。「もともと都市化が進む日本社会の変化に沿って、中選挙区制の下でも日本の政党政治は大きく変わるはずだった。日本という深い亀裂が少ない社会においては、小選挙区制がもたらす二大政党制よりも中選挙区制が許す緩やかな多党制のほうが有権者の考え方と政治への要望をより正確に反映する」というカーティス氏の主張は、的を得ているように思う。


2.日本の「対応型外交」

 カーティス氏は日本の外交姿勢を「対応型外交」として、「アメリカはいろんな貢献をしているが、目的は貢献ではなく、なんらかの形で貢献することによって、自国の力と影響力を増すことができると判断するから貢献するわけである。しかし、日本では「国際貢献」をすれば、世界に評価され、「孤児」になる危険性が少なくなると考えられ、国際貢献自体が目標になる」と評している。同時に、国際交流基金などを通じた文化面での国際貢献・国際交流や、経済開発援助の重要性を説く。
 日本の外交姿勢について本格的に論じる場は別の機会に譲りたいが、ある特定の外交問題に相対する際にまず「時流を読む」姿勢自体に間違いはないと思う。ただし、その情報を踏まえて繰り出される対応が「場当たり的」であっては困る。今の日本に欠けている点は、日本が外交を通じて「何を目指すか」という少なくとも今後数十年の目標について、国民や政治家、マスコミの間で共有されてもいないし、議論らしい議論もあまりされていない、というところにある。


3.成功する指導者の条件

 カーティス氏は「成功する指導者のやり方は一つではない。その人の性格とそのときの政治、経済、外交などの環境によって、当然リーダーシップのスタイルは変わってくる。・・・時代によって求められるリーダーの条件は変わるが、どの時代であろうと、民主主義国の政治指導者に必要なのは「説得する政治」のノウハウである」という。
 この点については大いに同意できる。理性による変革を訴えて当選した米国のオバマ大統領がその好例。単なる迎合主義(ポピュリズム)は危険だが、そのときどきで国民が感じている関心や不満を的確に察知し、政治的利害が交錯する場面においては論理と情熱を持って相手の説得にあたる。国家百年の計とあらば、多少の困難を伴ってでも、国民への説明をきちんと果たして実行する。こうした能力は「国民との対話能力」と言い換えて良いかと思うが、日本の指導者層はこの点で卓越していると言えるかどうか。特定の政策に通じていることや、政局に長けていることだけでは、必ずしも一国のリーダーに求められる条件を満たしているとはいえない。


                         (日経BP社、2008年4月発行)


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