Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

白川 正明 『現代の金融政策 理論と実際』

 現日本銀行総裁の白川氏が京大教授時代に著した中央銀行の金融政策についてのテキスト。単行本で445ページと分厚さがありますが、各章の記述は明快。
 「そもそも中央銀行とは何か」から、今後の中央銀行の役割についての展望まで。これ一冊に目を通せば、金融政策についてのニュースを読む眼ががらっと変わります。


・そもそも、物価の安定はなぜ必要か。

市場メカニズムによる資源の効率的配分機能は、物価水準が安定している下で最も発揮されやすい。
②物価水準が安定していると、将来の物価変動に関する不確実性が低下する結果、経済主体が長期的な視野に立った意思決定や計画を行いやすくなる。
③物価変動に起因して税制や会計ルールが資源配分に与える歪みを小さくする。
④物価変動に伴う資産や所得の意図せざる再配分を回避する。


物価上昇率の決定要因は何か。

①経済全体の需給ギャップ
②ユニット・レイバー・コスト(GDP1単位あたりの賃金支払い総額。賃金は企業のコストの70%を占める)
③輸入コスト(素原材料や中間財の価格変化)
④流通業のマージン
  

・資産インフレに対する中央銀行の対応はどうあるべきか。
⇒白川氏は、バブルの完全な防止は難しいとしながらも、以下の考え方に立っている。
①資産インフレ抑制のために金融政策を割り当てることは適当ではない。金融政策の本来の目的は物価安定。ただし、その範疇のなかで増大したリスクについては「足元の物価が安定しても金融政策を引き締め方向に運営する必要がある」
金利引き上げの短期直接的効果は限られるが、それでも「低金利の永続期待が幾分弱まることを通じて、強気の期待の自律的な修正タイミングを幾分なりとも早める降下はあると思われる」
バブル崩壊後の短期金利引き下げの景気刺激効果は、バブルの規模によっては限定的となる。よって「もっぱら「事後対応」の重要性を強調することはバランスを欠いている」
リスク管理の主役は個々の金融機関だが、加えて監督当局による検証も重要。
⑤物価が安定しつつも中長期的な成長持続性の観点から金融引き締めが必要とされる場合、中央銀行は説明の努力を重ねる以外にない。


・金融政策運営の今後の課題は何か。

①物価変動のダイナミクスの理解(グローバル化が進む中で、貿易財・非貿易財、国内需給・世界全体の需給、これらをどう捉えていくか)
②金融市場のモニタリング(多様な市場関係者のポジションの性格や動向をつかむ)
③金融政策の効果波及経路をどのように理解するか(金融機関や企業のリスクテイク能力に影響する経路が重要性を増している)
④金融政策の目的をどのように理解するか(物価安定と金融システム安定、両者の境界線は不明確)
⑤金融システムの安定における貢献(決済サービスの提供と最後の貸し手機能に留まらない)
中央銀行の組織文化(リサーチとバンキングを重視する組織文化)
中央銀行間の協力(情報交換や知的支援)

               (日本経済出版社、2008年3月発行)


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