Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

長倉 洋海 『フォト・ジャーナリストの眼』

 世界の紛争地でシャッターを押し続けるフォト・ジャーナリスト・長倉氏による回想録。戦乱時のエルサルバドルでゲリラとともに行動した経験や、今は亡きアフガニスタン北部同盟マスード将軍とともに過ごした日々、フィリピン人の出稼ぎ労働者への取材体験などを語ります。長倉氏自身が撮った写真も数多く掲載されています。

 
1.長倉さんの写真

 フリーになりたてのころの長倉さんは「新聞の一面を飾るような写真」を目指していたそうだが、現在の長倉さんにとっての「すばらしい写真」とは、「人間の心奥深くを揺り動かすような写真」とのこと。戦場の最前線ではなくても、後方地域であっても、そこに住む人々の日常を切り取ることで、見る人の感性に訴えるような「戦争」や「人間性」が見えてくる、という。
 この本のなかには、戦場の寒々しい写真だけではなく、マスードの戦士やフィリピンのスラムで暮らす人々、エルサルバドルの少女など、困難のなかでもたくましく生きる人々の笑顔や日常の生活の様子を写した写真が数多く収められている。戦争によって本当に傷ついている人は誰なのか、前線で実際に戦っている人は誰なのか、戦争が起こる社会背景は何なのか。それらの「一見普通の写真」を通じて見えてくるものは多い。


2.ミクロの眼とマクロの眼

 長倉さんは、ミクロの眼とマクロの眼の両方を持つことが大事、と説く。ともすればフォトジャーナリストは、ファインダーを通して写る風景のセンセーショナルさのみにとらわれ、被写体となる状況の構造的な背景についての分析をおざなりにしがちになる。「右目でファインダーをのぞきながら、左目でファインダーに映らない世界を見続ける姿勢だけは失いたくない」、と長倉さんは言う。
 これはフォトジャーナリストの職業姿勢に限った話ではないと思う。報道写真や映像に触れる側も、その時々のニュース性だけに振り回されず、その出来事の背景や時代の動きについて疑問を抱き、好奇心を持ち続けること。物事の背後に控える人や社会の思惑を読み取ること。不確実性が増す現代において、こうした姿勢を持つことの重要性はますます増している。

                             (1992年発行、岩波新書


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