Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

アルバート・カミュ 『ペスト』

 フランスのノーベル文学賞受賞作家・カミュの長編小説。学生の時代に購入しておきっぱなしにしていたものを読破。
 ペストに襲われた架空の北アフリカの町を舞台に、主人公の医師リウーをはじめとする町の人々が隔絶された町の中でいかに不条理の象徴たるペストと戦ったか、記録形式でつづられる物語。

 人間の理性の力を信じ、患者の診察に打ち込む主人公リウー:「それがもたらす悲惨と苦痛とを見たら、それこそ気違いか、盲人か、卑怯者でない限り、ペストに対してあきらめるなどということはできないはずです」

 新聞記者ランベール。恋人に会うため一旦は町の外への脱出を試みたが変心、保健隊に志願する:「・・・もし自分が発っていたら、きっと恥ずかしい気がするだろう。そんな気持ちがあっては、向こうに残してきた彼女を愛するのにも邪魔になるに違いない」

 もう一人の主人公タルー:共産主義活動に身を投じていた過去をリウーに語って:「われわれはみんなペストの中にいるのだ」「誰でもめいめい自分のうちにペストをもっているんだ。」

 カミュはこの小説のなかで、人の人生に襲い掛かるさまざまな不条理を、ペストという具体的な災厄として具現化させました。医師や保健隊による治療活動、それを支えた役所の事務方の人々の思考の変遷を丁寧に追っていく作業を通じ、人間が持つ不条理に抗う潜在的な力の強さが見えてきます。
 

(原著:Albert Camus "La Peste" 1947, Editions Gallimard.
 邦訳:宮崎 嶺雄 訳、1969年、新潮文庫