Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

中田 豊一 『人間性未来論 原型共同体で築きなおす社会』

 近代化がもたらす「人間性の喪失と共同体の衰退」について、途上国の共同体が持つ「豊かな人間性」と対比させながら論じるエッセイ。著者は、途上国での開発支援を担うNGO・シャプラニールの代表理事などを務める中田氏。

 「援助者の側がまず克服しなくてはならない固定観念がある。それは、援助される側の現実についてである。援助される側は、何かが足りなくて、あるいはうまくできなくて、あるいはわからなくて、困っていたり苦しんだりしている。だから私たちはその人を助けたり教えたり与えたりするのだという基本的な状況理解。これをまず疑ってかかることだ。」
 中田氏が言いたいのは、援助する側・される側が援助行為に対して持っている固定観念は、ときとして害になる、ということ。援助する側は「相手を見下し」、ときに守るべき約束を反故にしたり、必要のない質問を延々と続けたりする。そのようなケースでは、援助される側も援助する側の目線に合わせて「芝居」の役者を演じ、結果的に誰にも裨益しない結果が生まれる。この本の中では、「対等感」を持った関係の構築の重要性が、再三にわたって述べられている。

 「途上国の村落共同体に暮らす人々の圧倒的な情緒の安定。それに比べることの、核家族を生きる私たちの頼りなさ。近代化と産業化の進展に伴って伝統的な共同体が崩壊するとともに、私たちは、人間が人間であることの証とさえいうべき共同体への帰属意識がもたらす他者への素朴な信頼感と安定した情緒を失いつつある。」
 「物理的な環境と精神的な環境のバランスの取れた社会を築きたいのであれば、原型共同体のイメージをどのようにして現代社会に反映させるのかを真剣に模索するしかない。・・・・共同体の機能と価値の見直しが不可欠である。」
 自分も体験したことがあるが、途上国の農村にホームステイすると、そこに住む人々の笑顔やホスピタリティ、人と人との絆の大きさに感動し、東京での自身の個人主義的な生活とのコントラストに驚いてしまう。東京で途上国の農村と同じような「濃い」生活を送るのは一見難しいように思えるが、きっかけは案外簡単なことなのかもしれない。家族や友人、同僚との「対等感」を持った利他行動とコミュニケーションの積み重ね。即効性のある解決策はないにせよ、現代の日本人が失いつつある人間性の回復は、ひとりひとりが明確に意識しなければならない課題であると思う。

                             (竹林館、2007年発行) 


https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/F/Foomin/20190829/20190829194324.jpg