Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

クロード・ランズマン 『SHOAH(ショアー)』

 ヘブライ語で「絶滅、破滅」を意味する「ショアー」をタイトルに冠するランズマン監督の映画の全テクスト。ナチス・ドイツホロコーストが主題。映画は、体験者に対するインタビュー記録のみで構成されており、実に9時間半にも及ぶ長さとのこと。
 この本は読むのに9時間半もかかりませんが、ホロコースト体験者による生々しい当時の情景描写に、時折背筋が凍るのを感じました。
 
 旧式のガス室で毎日数千人が「処理された」トレブリンカ収容所で死体の回収作業にあたっていた旧ドイツ軍兵士。近隣の収容所で何が起こっているか知っていながら淡々と農作業を続けたポーランド人の農家。収容された女性の散髪を強制されていた友人のユダヤ人理髪師がガス室に入る直前の妻と妹に遭遇した場面を語るユダヤ人男性。ドイツ軍が移送列車の代金をユダヤ人から没収した財産でまかなっていたことを明らかにした歴史学者。そして、ホロコーストの指揮に関わった旧ドイツ軍官僚。

 彼らの証言は、人間がなしえた最悪の所業について、どんな歴史書よりもインパクトを持って伝えてくれます。20世紀の歴史を語るうえで欠かせないコンテンツとして、一見の価値あり。 
 若い世代の日本人にはなじみが薄い映画/本かもしれませんが・・・(恥ずかしながら自分は最近まで知りませんでした)。
 
(原著:Claude Lanzmann "SHOAH" 1985, Editions Fayard, Paris.
 邦訳:高橋武智訳、作品社、1995年発行)