Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

平林 博 『首脳外交力 首相、あなた自身がメッセージです!』

 もと駐印大使・駐仏大使の平林氏による新著。タイトルのとおり、首相およびその周辺による「首脳外交力」の重要性がメッセージ。分量の半分以上が、洞爺湖サミット準備をはじめとする首脳外交を外務省幹部の目線で捉えた平林氏の回想録で占められています。


1.「首脳外交力」が求められる時代

 第二次世界大戦まで、多くの国で外交は、上流社会のエリートによって構成される職業外交官によって仕切られていた。通信も交通もままならない時代、一度大使が任命されると本国より重要案件の全権を与えられることも多く、また職業外交官が昇進して外務大臣になることもあった。
 戦後、多くの国で「外交は民主化」され、選挙で選ばれた代議士による首脳(大統領や首相)がその役を務めることになった。政策や理念はもとより、首脳が自ら国際会議や外遊に出かけ、各国のメディアにその国の「顔」として搭乗する。まさに「首脳外交力」の時代である。


2.首脳外交力は内政力と比例する

 首脳の外交力は、内政における基盤の強さ、指導力・発信力の強さに比例する。まず足元の基盤がしっかりしていてこそ、海外から向けられる目も変わってくる。小泉時代の日本が良い例で、平林氏も「改革国家日本」の姿を駐仏大使の立場から存分に発信した。
 最近で言えば、ブッシュ政権末期のアメリカがまず思い浮かぶ。国内の支持率も低く経済政策でも失敗、任期切れも近いなど「レームダック」化しているブッシュ政権は、国内のみならず海外でも相手にされていない様子(日本も他の国のことを言えたものではないが・・・)。


3.ユーモアのセンスと歴史の知識

 定まった順番がなく自由に発言・討論するサミットの場で特に首相に求められるスキルとして、平林氏は「ユーモアのセンスと歴史の知識」を挙げている。西洋型のエリート教育を受けてきた欧米の首脳陣とやり合う上では必要不可欠なスキル、ということか。1996年リヨンでのサミットで、世界史のコンテクストとユーモアを交えて場を盛り上げ自身の株を挙げた橋本首相(当時)の例が、好ましい事例として挙げられている。

                         (2008年6月発行、NHK出版生活人新書)


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