Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

堀内 都喜子 『フィンランド 豊かさのメソッド』

 フィンランド・ユヴァスキュラ大学院で異文化コミュニケーションを学んだフリーライター・堀内氏によるフィンランドの社会・文化・人々の暮らしを描いたエッセイ。現在はフィンランド系企業に勤め、さらにフィンランドとのつながりを濃くしているところだそう。
 フィンランド、昔からTBS「世界ふしぎ発見!」Etc.で映像を良く見ており、個人的に以前からかなり興味のある国の一つです。小難しい政治や経済の分析は一切でてきませんが、その分さくっと読める、フィンランドに関心ある方にはおススメな本です。


1.フィンランド「教育力」の源泉

 高い教育の質で知られるフィンランド。堀内氏のまわりのフィンランド人に言わせると、「とくに凄いことはしてないのに、何でなんだろうね」とのこと。その道の専門家に聞けば、その秘密が見えてくる。
・高い教師の質
・少人数制
・平等な義務教育
・教師という職業の社会的地位が高い
・能力別クラスや偏差値編成がない
とりわけ教師の質については誰しもが口をそろえる。大体の教師が修士号まで取得しているほか、厳しい審査を潜り抜けて専門の教職課程を受講しなければならない。単なる知識詰め込みではなく、問題解決力や自分で考える力、適応力を重視した決め細やかな教育が目指されている。


2.手厚い福祉・教育を裏付ける経済財政運営

 高い消費税や所得税のとおり、フィンランドは世界でも税率が高いことで有名。その一方、その使途はガラス張りで、戦略的な予算の割り振りもなされているらしい。たとえばITのような「強み」を持った産業への集中投資、初等教育・高等教育の充実化、徹底した出産・育児支援策など。
 ただし好不況の波は確実にあり、たとえば90年代初頭には失業率は20%を超えた。ただし当時の政府は国家の危機について率直に国民に説明し、家計には倹約を求め、国家予算についても道路などのインフラや教育予算の中でも削られるところ(教科書の使いまわしEtc.)は徹底して倹約財政を敷いた。その結果が、現在の「特定産業」が誇る高い生産性、人的資源のレベルの高さ。
 ひるがえって思考はやはり日本の現状に飛ぶが、社会保障費は膨らみ税収は伸び悩む一方、防衛費は維持、公共事業費も抜本削減には至らず、各種特別会計も温存。教育予算は切り詰められ、投資分野を絞り込む産業振興戦略にも乏しい。与党・政府は経済金融危機を「危機」と語らず、選挙と与党の延命だけを考えてポピュリスト的な短期バラマキ型の景気対策に終始する。 
 フィンランドの事例を読んでいると、結局は政治家の「危機を『危機』と真摯に語り、国民に理解を求めていく姿勢」の差、という気がする。また国家としてのビジョンを打ち出すリーダーの不在と、そのビジョンに無関心な国民の姿にも、思いが至る。他国の経験を他国の経験として学び、日本として独自の道を歩めば良いのだが、その「道」について国内ので共通認識が形成されているわけではない。


3.フィンランド人と日本人の違い

 堀内氏によれば「沈黙を好むがダイレクト」。感情をオーバーに表現したりせず、社交的な会話がちょっと苦手だったりするのが、特に一般的なフィンランド男性の傾向。そのあたりはやはり日本人と似ているところかもしれない。
 ただしビジネスの場などではとにかくダイレクトに、簡潔にものごとを表現する。「知らない、わからない」もよく耳にする言葉。外国人からすれば冷たく突き放される感じがするが、全体の和や相手の意思を汲み取る力よりも、個人の能動的なアクションに重きを置くフィンランド人の気質が表れている。レストランでトイレの場所を聞くときにも、「トイレはありますか」だと「はい、あります」で終わってしまうので、「トイレはどこですか」とちゃんと尋ねないといけないのだとか 笑。


 
                           (集英社新書、2008年7月発行)
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