Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

ロバート・ゲスト 『アフリカ 苦悩する大陸』

 だいぶご無沙汰してしまいましたが、徐々に再開。

 英エコノミスト誌の元アフリカ担当編集長のゲスト氏によるアフリカの国々を描いたルポルタージュ。具体的で、包括的。この種の本としては傑出した本だと思います。
 邦訳は300ページ強。ナイジェリア、ザンビア南アフリカジンバブエケニアカメルーン・・・多くの国の社会の様子を生々しく伝えつつ、ガバナンス、資源、HIV、紛争、貿易と援助、インフラ、イノベーションと民間投資。分野別の章立てのもと、サブサハラアフリカの課題をするどく抉り出していきます。


・アフリカの貧困の原因は?
⇒ゲスト氏の結論は「政府に問題があるからだ」。借金を返すために紙幣を乱発する習癖を持つジンバブエムガベ政権。道行く車を止めて袖の下を要求し続けるカメルーンの警官(ゲスト氏はビール製造会社のトラック輸送に同行取材している)。部族主義によって分割され続けていくナイジェリアの諸州。貧困脱却に充分な富を蓄えているはずなのに、政府高官や軍上層部の車や家が豪奢になっていくばかり。

・経済発展は必要か?
⇒Yes.「アフリカの人々は豊かになったらどのように暮らし、どのような社会を築いていくのか?それはひとえにアフリカ人自身にかかっている。しかし、選択肢はもう充分だという人に、私はまだ会ったことがない。」

・問題解決へのヒントは?
⇒健全な選挙制度の確立。
 財産法の整備。
 HIVへの徹底抗戦。
 部族と国家の分離(比較的成功しているのはタンザニア)。
 援助の成否を分けるものは被援助国による適切な経済政策の執行(ボツワナザンビアは対照的)。
 たとえ少ない予算でも、合理的に使用すれば成果は出る(タンザニア保険省とカナダ・IDRCによる「基礎的保健管理計画」)
 基礎的な需要の充足:初等教育・一次医療・道路・水道水・司法制度。


 サブサハラアフリカのの国々の社会・経済・政治の個別事情から共通する課題を導き出す作業は、途方もない量の散らばったピースから一つの小さなジグソーパズルを作り出すのに似ています。英語・仏語をはじめとするとてつもない文献資料や、文字として出てこない各国の社会事情や個々の文化を消化したうえで、自然なロジックと現実的かつ有用な結論を導く必要がある。作業者の力量によっては、ともすれば各国各地域の個別の事情を無視した無味乾燥な結論になりがちですが、ゲスト氏はこの難しい作業に果敢に取り組み、課題の核心を見事につかむことに成功していると思います。 

 また、従来の二国間援助のかわりに関税障壁の撤廃や規制緩和を通じた貿易・民間投資の重要性をうたうゲスト氏の主張は、対アフリカ援助・投資に携わる人々とって重要な示唆となるはずです。
 

 (原著:Robert Guest "The Shackled Continent: Africa's Past, Present and Future." Macmillan Pulishers Ltd., 2004.
  邦訳:2008年5月、伊藤 真 訳)

 

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