Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

遠藤 周作 『深い河』

 遠藤周作氏のベストセラー小説。人間の死を淡々と受け入れるガンジス河のほとり・ヒンズー教の聖地ヴァラナシを舞台に、それぞれの過去を背負った日本人の思いが交錯します。

 いちばん印象的なのは、ミッション系の大学に通いキリスト教を信仰しながら、その西欧的・排他的な教義主義に違和感を覚え、汎神論を内に秘めたままヴァラナシのアシュラム(ヒンドゥー修道院)に移り、で死体運びの作業に従事している主人公のひとり、大津の生き様。
 彼自身は、彼の人生を突き動かす大きな意思=神のことを、私たちのすぐそばにある何気ないもの、「玉ねぎ」になぞらえます。
 小説の終幕、大津は、火葬場に向かって老女を背負う自身の姿を、ゴルゴダの丘に向かうイエス・キリストの姿になぞらえます。その姿は、「汎神論の国・日本に住む日本人にとってのキリスト教」に対する遠藤さんの考え方を象徴しているように思います。

 また、ガンジス河のほとりでの美津子の言葉:
「信じられるのは、それぞれの人が、それぞれのつらさを背負って、深い河で祈っているこの光景です」
 人間の思い、感情、生死、全てを受け入れて流れ続ける悠久の大河・ガンジス。 

 自分はインドに行ったことがないのでですが、ヴァラナシを訪れた大学時代の友人達は口をそろえて「人生観が変わった」といいます。人々は死に場所を求めてヴァラナシに集まり、人知れず朽ちていく。死体は火葬場で焼かれ、その灰はそのままガンジス河へと流される。すぐその横で人々は沐浴し、「神聖な」茶色の水で体を清め、口をすすぐ。

「清浄と不潔、神聖と卑猥、慈悲と残忍とが混在し共存している」ヒンズーの世界、じぶんも興味が湧いてきました。
 学生時代に行く機会に恵まれなかったインドですが、近いうちにぜひ行ってみたいものです。
 また輪廻と涅槃を扱った三島由紀夫の『豊穣の海』、第三巻でヴァラナシの記述がありますが、もう一度じっくり読み返してみたくなりました。
 
                                      (講談社文庫、1996年)


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