Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

廣瀬 陽子 『コーカサス 国際関係の十字路』

 コーカサス地域(カスピ海黒海に挟まれたユーラシア大陸のど真ん中)研究で知られる研究者・廣瀬先生の新刊。一般向けの新書とあって、帯にあるとおり「日本人がいちばん知らない地域で、今なにが起きているのか」、とくに民族紛争、天然資源、対外関係(対米国、対欧州、対ロシア、対イスラム諸国)について、とても分かりやすく書かれた本。
 コーカサス地域のゲストも職場で良く会うのですが、彼らと話をするなかで、中央アジアと同様「コーカサス地域って実はあまり良く知らないなあ」と思っている矢先、本屋に平積みされていたので購入。
 
 以下、勉強になったところをぽつぽつ↓


旧ソ連地域には4つの「未承認国家」と呼ばれる事実上の無法地帯がある。ナゴルノ・カラバフアブハジア南オセチア沿ドニエストルの各共和国。それぞれロシアの軍事力の庇護を受けるが、複雑なことにロシアはこれらの地域の「国家承認以外の全て」は認めても、「国家承認」だけは認めない方針。

アルメニア本国のアルメニア人が約300万人、国外居住するアルメニア人はその倍以上。彼らは経済的に成功した人々が多く、国外送金を通じて本国の経済を支えている。

コーカサス3カ国のうち、グルジアアゼルバイジャンがロシアと距離を置いているのに対し、資源・経済・軍事をロシアに依存しているアルメニアは、ロシアとの距離が近い。

・ロシアがチェチェンにこだわる理由は、①チェチェンに独立を認めると、ドミノ式に他の連邦内の民族共和国が独立に傾く恐れがある、②歴史的にコーカサス地域の人々を差別する風潮がある。

旧ソ連地域内で、SCO(上海協力機構、ロシア・中国・中央アジア各国等)とGUAM(グルジアアゼルバイジャンウクライナモルドバ)という2大ブロック化が進んでいる。

・シュワルナゼ前大統領を下野させたグルジアの2003年「バラ革命」は、その後の経過を見るに、グルジア民主化を進めたというよりも、むしろ国家体制の強化をもたらしたものといえるかもしれない。

 
 タイトル「国際関係の十字路」にあるとおり、地政学的な重要性から来る諸外国の思惑や、民族・宗教のモザイクのせいで、一筋縄では読み解けない難しい地域・コーカサス
 ただ、そのぶんこの地域に働く力学を読み解けば、一気にそのまま世界情勢の理解につながる、と思います。先月再燃した南オセチア紛争など、この地域のニュースが気になる人はぜひ。
 
                                 (集英社新書、2008年7月発行)


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