Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

坪井 善明 『ヴェトナム新時代  「豊かさ」への模索』

 ベトナム研究で知られる坪井さんの新刊。コンパクトな新書のなかに、ベトナム戦争の傷跡、ホーチミン再考、市場経済改革・一党独裁制の課題、少数民族の問題、日越関係の展望など、密度の濃い情報が詰まっています。
 昨年度に公私にわたって2度も訪れたベトナムだけに、思わず本屋の新刊コーナーで即買い。


ベトナム経済の障害は何か?
⇒2020年までの完全工業化への方途は見えつつある。他方で、①経済金融に精通した人材不足に代表される共産党一党独裁の弊害、②通貨主権の問題、③製造業の育っていないいびつな産業構造、④人材不足、といった問題がある。また2007年のWTO加盟に絡み、①依然残る旧態依然とした国営企業の民営化の問題、②受注競争悪化に伴う汚職の深刻化、③頭脳流出の問題、が予想される。


・日越関係を考えるうえでの課題は何か?
⇒日本は必ずしも磐石の信頼を得ているわけではない。日本のODA・経済協力がはらむ「日本式経験の押し付け」「事業実施までのスピードの遅さ」といったマイナスの側面は、同じアジア域内でも中国や韓国の存在感が増すなか、公に批判され始めている。
 また2007年以降、目に見えてかつての敵国・アメリカおよび帰国越僑の存在感が増している。
 日本国内に目を向ければ、いまだのこるアジア人蔑視の目、昨今の日本社会の「内向き」な態度が、社会的な問題として残る。


ベトナムが目指すべき政治体制は?
ホーチミンの掲げた「共和国精神」に基づく三権分立の確保。基本的人権と民主主義を重視し、一党独裁に変わって複数政党制を時間をかけて導入する。ドラスティックな政治改革は経済へのダメージが大きいため回避すべきだが、他方で今後のベトナム人の幸福を考えれば、遅かれ早かれ民主化は不可避。


                                   (2008年8月発行、岩波新書