Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

野田 由美子 編著 『民営化の戦略と手法 PFIからPPPへ』

 バンクオブアメリカや旧長銀でプロジェクトファイナンスに関わった後、英国をはじめ世界各国で政府の民営化アドバイザーを務めた実績のあるプライスウォーターハウスクーパースに勤め、2000年に日本事務所で民営化部門を立ち上げた野田さんによる「民営化」の戦略・手法についての解説書。

 会社の本棚から引っ張ってきた本で、2004年発行、ちょうど郵政民営化道路公団民営化が日本でも話題になっていた頃に出版されたものですが、政府事業民営化のそもそもの意義や実際の民営化プロセスにおける様々な手法について網羅されているという点で、今でも中身はさびれていないと思います。かなり読みごたえがあります。
 例によって参考になった点を幾つか↓

PFIプライベート・ファイナンス・イニシアティブ)とPPP(官民パートナーシップ)の違いは?
⇒本書36ページ、67ページの表が大変参考になる。まず、広義の民営化は、以下の2種類に分類される。ただし独立行政法人化や第3セクター方式は、公共部門内部における単なる「看板の挿げ替え」として、ここでいう「民営化」の中には含まれない。
1. PPP(官民パートナーシップ):
 PFI、コンセッション(運営権)方式、BOT(Build, Operate and Transfer)/BOO(Build, Operate and Own)方式、アウトソーシング 等
2. 狭義の民営化:
 民間会社化、民間への企業売却・事業譲渡

 1.のPPPのうち、PFIは、1992年に英国で始まった手法。計画立案および監視機能を官が担い、事業の実施(設計、建設、維持管理、運営)は極力民間にゆだね、ライフサイクルコストを最小化しつつ、国民に対して低廉・良質なサービスの提供を目指す。維持管理・運営をセットにすることがミソで、後先を考えない「豪華絢爛なハコモノ」やいわゆる「一円入札的商法」を回避することができる。
 日本における最近の具体例は、霞ヶ関の中央合同庁舎第7号館整備等事業、今年初頭にオープンした複合ビル(仕事で自分もいつも通ってます)。

・民営化「先進国」である英国の経験から得られる教訓は?
⇒以下4点。
①資産売却のタイミングと方法:資産評価の方法やノウハウの蓄積が重要。
②民営化前の産業構造改革:民営化された事業者が単なる独占企業とならず競争性を持った市場を創出するよう、予め対象産業における構造改革を実施しておくこと。
③黄金株(政府保有の特別株)の活用:民営化後の経営者の任免権などを官に残す仕組みを通じて、ある程度の公共性を保つことも一案。ただし導入には慎重になる必要がある。
④利害関係者からの支持の醸成:国営企業の経営陣や従業員、一般国民に対して早期から民営化メリットの説明を行い、支持を得ておくこと。

 野田さんが「まえがき」で述べられているように、日本では「民営化」という言葉だけが一人歩きしている感がいまだにあるように思います。自分もこの本を読むまで、民営化という言葉が持つ広がり -単なる事業売却だけでなく、PFIを含むPPPが包含する様々な手法- について、あまり深く理解をしていませんでした。
 野田さんは「昨今の欧米では『国民価値の創造』という明確な政策目標の手段として様々な民営化手法が試みられているのに対し、日本では政策目標が曖昧で民営化自体が目的化している」ともいいます。2005年の「郵政選挙」がその象徴だったともいえるでしょう。
 肥大しすぎた日本の官をすり減らす公的部門改革はまだ途上にありますが、「官から民へ」の一連の改革についての詳細については、政・官・マスコミに説明する責任が、国民に理解する義務が、それぞれあるように思います。

(2004年発行、日本経済新聞社

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