Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

糠谷 英輝 『拡大するイスラーム金融』

 アジアの証券市場について勉強する中で、必然的に現れるトピック「イスラム金融」。ここ1、2年の間に日本語の解説書も幾つか出てきたので、一冊ピックアップしてみました。著者は国際通貨研究所主任研究員の糠谷氏。


・昨今のイスラム金融拡大の要因は?
⇒①供給サイドの要因として、世界を駆け巡る原油輸出国発のオイルマネーの増大、②需要サイドの要因として、湾岸諸国の脱石油経済改革/経済の多様化に伴う多数のインフラストラクチャ建設による資金需要の増大、が挙げられる。

イスラム金融の基本ルールは?
⇒①利子(不等価交換によって得られる不当利得)の禁止、②不確実性(未来の財・サービスの交換など)の禁止、③賭博・投機の禁止、④禁忌とされる財・サービス(アルコール、タバコ、豚肉、ポルノ、武器など)取引の禁止、の4点。

イスラム金融の基本スキームは?

①ムラーバハ:
 資金提供者(銀行など)を通して商品を売買。個人の自動車購入や企業の設備投資など。割賦販売とすることが可能。
②イジャーラ:
 資金提供者(銀行など)が実物資産を購入し、利用者とリース契約。土地・建物、機械設備、航空機などのほか、最終的に所有権が顧客に移転される住宅ローン等にも利用される。ムラーバハに比して長期の資金調達を可能にする。
ムダーラバ
 資金提供者が第三者(銀行など)に資金を信託し、信託先の事業から得る収益配分を受ける信託金融の類。イスラム預金の基本的なスキーム。
④ムシャーラカ:
 資金提供者(銀行や投資家)が事業家とともに共同事業経営を行い収益を分かち合う合弁事業。ムダーラバに比して長期の事業に利用される。


 そのほか、世界の債券市場でのプレゼンスを年々高めつつあるスクーク(イスラム債券)、そしてタカフル(イスラム保険)についても触れられており、イスラム金融の入門書としてはじゅうぶんな情報が詰まっていると思います。
 全体的に見てまだまだ制度・インフラが不十分な面もありますが、イスラム人口が2030年には世界の3分の1になるといわれている現代において、従来の金融のパラダイムを大きく変換させる可能性も秘めていると思います。今後要注目のトピックです。

                                   (蒼天社出版、2007年発行)


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