Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

神野 直彦 『財政学 改訂版』

 東京都税制調査会会長も務めた東京大学の財政学者・神野先生による財政学の入門書。
 「はじめに」で書かれているように、財政とは社会・経済・政治が有機的に絡み合う「境界線上の領域」。
 章立ては以下のとおり。大学の学部生や財政に関わりのある一般社会人で、平易な言葉でつづられています。


第1章 財政学のパースペクティブ
第2章 財政学のあゆみ
第3章 予算
第4章 租税
第5章 政府のアウトプットとサブシステム(歳出)
第6章 政府間財政関係(地方財政社会保障基金、公企業と財政投融資


財政学の起源は?
⇒①官房学(国家経営学、16世紀以降のドイツ)、②アダム・スミスリカードらによる古典派経済学(18世紀後半イギリス)、の流れを受けて、ワグナー(19世紀末、ドイツ)が確立。

Public Financeと Fiscal Policy、どちらも「財政」と訳すが、その違いは?
⇒Public Financeは「財政」の訳語。「財政」は福沢諭吉『財政論』(1869年)による。公的な/政府に関係した貨幣現象のこと。いっぽうFiscal Policyは、ケインズ(20世紀前半、イギリス)による、財政を景気政策の手段として活用しようとする財政政策。Public Financeのほうが広義であるといえる。

財政の基本機能は?
⇒マスグレイブ(ドイツ⇒アメリカ、20世紀前半)によれば、①資源配分機能(経済資源を民間部門と公共部門に配分する機能)、②所得再分配機能、③経済安定化機能(ケインズが目指した財政政策)、の3種類。その機能を果たすためのおもなツールは、①租税、②歳出。


 日本や各国の財政制度の仕組みや構造についてのテクニカルな解説を期待すると、的外れに終わると思います。本当に文字通り、経験科学としての財政学を包括的に扱った本。
 改訂版が発刊されたばかりですし、経済・財政に興味のある方は、ぜひ一度手にとってみてはいかがでしょう。

                                     (2007年発行、有斐閣) 


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