Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

ラニー・エーベンシュタイン 『最強の経済学者 ミルトン・フリードマン』

 「ケインズ理論を葬った」自由主義者・貨幣主義者にして経済学の巨人、ミルトン・フリードマン(1912~2006)の伝記。生前の本人、関係者へのインタビューによって構成されています。 
 大きな政府と小さな政府、言い換えれば市場と政府のバランスが今までにないほど注目されている今の世界経済において、フリードマンの思想はとても刺激的で、示唆に満ちています。


フリードマンの思想のベースは何か?
⇒個人の「自由」の最大化。政府の権力の最小化。


フリードマンを20世紀後半「最強」の経済学者ならしめた著作・思想は何か?
⇒『合衆国の貨幣史』で、大恐慌の原因が、ケインズ理論が言う過剰貯蓄(限界消費性向の低下)ではなく、当時の不適切な中央銀行の金融政策によるマネーサプライの減少にあったことを、徹底的な実証データ検証とともに明らかにした。
 彼は今から40年以上も前に、貨幣数量説とマネーサプライ、金融政策の重要性を指摘していた。1968年インドでの講演での象徴的な言葉:
「インフレは、いついかなる場合も貨幣的な現象だ。」 
貨幣量と物価/インフレ、現代の金融政策においては半ば常識となっている両者の相関関係を、1960年代にきわめて明快に語ったフリードマンの先見の明には、素直に驚かざるを得ません。
 また「課税と物価に明確な関係は見られない」として、この点からも政府による過剰な市場への介入を牽制し、一貫して減税と財政支出の削減を主張しました。


 この伝記を読んで改めて分かることは、フリードマンが単なる市場万能主義者でもアナーキストでもなく、誰よりも「個人の自由」に重きを置いて物事を考えていた人である、ということです。
 彼にとっては、政府の過剰なサービスにより、市民が「サービスを選択する余地」を狭められてしまうこと、そして市民が政府のサービスを所与のものと捉えてしまうことによる各種の弊害を、歯がゆい思いで見つめていたのでしょう。
 
 ただし現実の世界では、フリードマンが考える理想がいつも通じるわけではありません。インタビューの最後でまさに本人が語っているように、「現実を見れば、歴史の終わりなど決して訪れ」ず、市場経済から生まれ出る問題に対しては、私達はこれからも相対していかなければいけないことは自明です。


(邦版:大野 一 訳、日経BP社、2008年1月発行。
 原著:"Milton Freidman: A Biography" Palgrave Macmillan社、2007年発行)

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