Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

江川 由紀雄 『サブプライム問題の教訓 証券化と格付けの精神』

 1990年代から一貫して市場関係者の立場から証券化商品の組成、格付けに携わってきた江川さんによる証券化・格付け・サブプライムローン問題に関するエッセイ。出版時期は2007年12月、サブプライムローン問題が世界中で深刻化していた時期に、タイミングよく出版された本。
 サブプライムローン危機に端を発する世界経済の混乱は、この半年の間にさらに変動の激しさを増しています。

 この本を読んで、改めて「新しく知ることができた」と思った点は以下の3点です。

1.日本における証券化の起源:
 日本の証券化が、90年代のノンバンクの資金調達ニーズによるものであること。その後、住宅ローンの金利リスクの外部への分離、会計上の資産圧縮を目的として、2000年代に入り証券化のオリジネータの主役が大手銀行に移りつつあったこと。

2.証券化の本来の役割:
 江川さんによれば、「典型的には金融機関その他の企業が保有する資産に仕組みを加え、有価証券や信託受益権などの金融商品に加工し、資本市場を用いて資金調達およびリスク移転を行うこと」。 
 そして、江川さんの証券化に対するスタンスは、以下の文章に凝縮されているように思います。
「事業会社と異なり、経営の裁量を一切持たない証券化商品の発行主体は、生み出したキャッシュフローを関連契約書の規定どおりにまずは債務の弁済に充当するのであるから、資金使途の不確実性もない。証券化商品は、事業体が発行する社債よりも償還可能性に関する不確実性が小さい。証券化商品んは本来的には分かりやすいものである。」
 更なる加工を通じて世界中にもたらされた証券化商品は、その焦げ付きとともに世界中で流動性リスクを顕在化させました。その中で証券化商品そのものと格付け会社が槍玉に挙げられましたが、江川さんはあくまで冷静に、市場関係者の「節度のメカニズム」の不在について問題提起を行います。

3.米国景気減速とサブプライム問題:
 江川さんは、2007年以降の米国景気と住宅市場の冷え込みは、07年以前に政策当局が仕掛けてきた政策金利の利上げにあくまで起因し、サブプライムローンの焦げ付きによる混乱は限定的なものである、といいます。 
 たしかに米国住宅ローン10兆ドルのうち証券化されていたのは1兆3000億ドル(2006年末時点)。サブプライムローン問題はあくまで米国の金融不安・景気減速の「一要因」に過ぎない、ということです。

 小難しい教科書や実務者向けテキストとは異なり、あくまでエッセイとしてさくさく読めます。
 サブプライムローン問題は何だったのか、そこから得られる教訓とは何か、そもそも証券化とは何か、格付けの役割は何か。
 これらの疑問に真正面から答えてくれる、充実した内容の本でした。
 
                                     (2007年12月、商事法務)


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