Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

井上 信一 『モブツ・セセ・ココ物語 世界を翻弄したアフリカの比類なき独裁者』

 外務省・旧日本鉱業に務めた経験のある井上さんによるコンゴ民主共和国RDC、旧ザイール)の独裁者・モブツの人物評伝。同僚の一部で去年あたりから話題になっている本で、この週末に自分も読了。

 モブツが政権を握っていたのは1965~1997年の33年間。
 CIAとのつながり、クーデターによる政権掌握、一党独裁、豊富な地下資源の開発、私利私欲のための公金使用、悪化する国内経済、反対派の徹底弾圧、冷戦の終焉と二度のシャバ紛争、周辺国との確執、そしてローラン・カビラによるクーデターによる失脚。 
 この本では、モブツの生い立ち、思想、行動、時代を取り巻く諸要因について、事実と既存の仏語文献からの情報に基づいて、丹念に紐解いていきます。

 また、487ページの内容のなかには、モブツとモブツを取り巻く時代の出来事のみならず、RDCに関する歴史、社会、政治、さまざまな情報が盛り込まれています。
 RDCについて書かれた日本語の本は少なく、この点だけでも一読の価値があると思います。
 
 ちなみにRDCは、その地下資源の豊富さ(銅、コバルト、原油、ダイヤモンド、金、Etc.)とアフリカ第三位の面積を誇る広大な大地、アフリカ大陸の中央に位置する地政学的な重要性などから、世界にとってきわめて重要な意味を持つ国です。
 他方、1960年までのベルギーによるずさんな植民地支配と独立後の大混乱、民族の多様性・複雑性、ジャングルに覆われた厳しい自然環境、広い国土に散らばる武装勢力、開発資源を狙う欧米と周辺国の動向、冷戦下の防波堤としてのアメリカ・CIAの思惑、といったさまざまな不安要素を抱え、人々は常に生活と生命の危機にさらされてきました。いまでも東部地域は事実上の無法地帯になっており、聞くに堪えない凄惨なニュースが現地・海外のメディアを通じて耳に入ってきます。

 数百年にわたって一部の権力者と気まぐれな国際社会に翻弄され、牙をもがれた満身創痍の巨象・RDC
 国際社会の一員として、できるだけ多くの日本に住む人たちにも、この国の実状について知ってほしいと思います。

                                       (2007年、新風舎
 
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