Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

サイモン・シン 『フェルマーの最終定理』

 もとBBC科学ジャーナリストサイモン・シンによる「フェルマーの最終定理」をめぐる、3世紀以上におよぶ数学者達の歩みと苦闘を描いたノンフィクション。
 「新潮文庫の100冊フェア」に惹かれて購入した新潮文庫のうちの一冊。あまりの面白さに、寝るのも忘れて没頭してしまいました。
 
 17世紀、気まぐれなフランスのアマチュア数学者・フェルマーが残した言葉:
「私はこの命題の真に驚くべき証明を持っているが、余白が狭すぎるのでここに記すことはできない」
  xのn乗+yのn乗=zのn乗 を満たす3以上の自然数nは存在しない。
(ちなみに、n=2の場合は上記方程式が満たされます。全ての直角三角形に当てはまる、いわゆる「ピタゴラスの定理」)

 この本は、なぜフェルマーが一見して小学生にも分かる命題を思いついたのか。フェルマーの「思いつき」の源泉はなんだったのか。そして、以後3世紀にわたって繰り広げられてきた数学者達の苦闘がどのようなものだったのか、をまず明らかにします。
 紀元前のピタゴラスから始まり、エウクレイデス、そしてディファントスの大著『算術』。その後千年以上を経て17世紀にフェルマーの手に渡った『算術』の余白のなかに、「フェルマーの最終定理」が書き込まれました。その後3世紀にわたって、オイラー、ジェルマン、ガウス、コーシー、ラメ、クンマー・・・天才数学者達が次々にこの難問に挑戦し、挫折していきました。

 そして20世紀後半、ドラマは、幼いころからこの命題に惹かれ続けたアンドリュー・ワイルズによって大きく展開していきます。
 すべての「楕円方程式」は「モジュラー」であることを予想した「谷山=志村予想」の発表。フライによるフェルマーの最終定理の方程式の変形。ケン・リベットによる「谷山=志村予想」とフェルマーの最終定理とのリンクの証明。18世紀の早熟の天才・ガロアによる「群論」、そして「岩澤理論」と「コリヴァギン=フラッハ法」。
 20世紀までの数千年間、世界各地の天才数学者たちが積み上げてきた数論の定理とテクニックを積み重ね、ようやくワイルズが完全証明を達成したのでした。

 数千年にわたる数学者たちについての幾つものヒューマンストーリーが、この本をさらに興味深いものにしています。ピタゴラス古代ギリシャの数学者が味わった不運。フランス革命や宗教運動に翻弄され続けた近代ヨーロッパの天才数学者たちの生涯。そして20世紀の数学者による数論の各領域の大統合。とにかく飽きさせない内容です。

 自分も文系ながら数学が好きで、受験生時代に英語や古典をほったらかしにして夜中まで延々と代数や幾何の問題とにらめっこしていた記憶があります。
 フェルマーの最終定理、名前だけは知っていましたが、その証明にいたる数学者たちのドラマと証明内容については、この本を読むまで知りませんでした。

 数論・数学に興味のある方、「フェルマーの最終定理」に聞き覚えのある方、天才数学者たちの生涯に興味のある方。ぜひおすすめしたい本です。

    (青木 薫 訳、2006年、新潮文庫。原著:Simon Singh "Fermat's Last Theorem" 1997.)


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