Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

宮部 みゆき 『火車』

 ベストセラー作家・宮部氏による、消費者ローン社会の闇を描いた長編ミステリー。

 これまで宮部みゆきを全く読んだことなかったので、傑作と名高い本書からまず手に取ってみた。さわりだけ読もうと思って就寝前の午後12時から読み始めたものの、気づいてみれば午前4時。続きが気になって本を置けず、一気に最後まで読み通してしまった。
 少々ご都合主義的な展開もあるが(終盤、主人公が謎を解明できず行き詰まったところで、小学生の息子が解決の手がかりを連想させるエピソードを偶然披露する、とか)、難解な表現や分かりづらい心理描写がなく、最後までスイスイ読める。犯人役である新城喬子の人生は数奇そのもので、父親の住宅ローン返済地獄を経て「他人と成り代わる」罪を犯したものの、成り代った相手も実は消費者ローンによる破産を経験していたという事実を知り驚愕する様は、悪役といえど胸を打つ。

 解説で佐高信氏が述べているように、他人事と思っていたローン地獄が実は誰にでも起こりうる身近なものであることを如実に示しているところが、本書が長年にわたり高い評価を受けている理由のひとつであろうと思う。当方も結構パッとお金を使ってしまうたちで、口座残高が足りなくなってカード会社から警告の電話を受けたこともあり、とても他人事とは思えなかった。作中に登場する弁護士の言:「私はね、とにかく夜逃げの前に、死ぬ前に、人を殺す前に、破産という手続きがあることを思い出しなさい、と話すようにしています」は、悲劇の予防策として全ての社会人が胸に刻んでおくべき警句である。

(1998年、新潮文庫


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