Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

マビヌオリ・K・イドウ 『フェラ・クティ 戦うアフロ・ビートの伝説』

 フェラ・クティをご存知の方は日本にどれだけいるだろうか。1970、80年代にジャズやアフリカンミュージックに傾倒した方ならご存知かもしれない。今でも彼の音楽を収めたCDはネットショップやちょっと大きめのレコードショップで手に入れることができる。たとえば彼の代表曲、ナイジェリア軍部のおろかさを歌った「Zombie」を聞いてみてほしい。そのリズムの独特さ、メッセージの鋭さは、時代を超える「凄み」を持っている。

 彼と長い間苦楽をともにした活動家・イドウ氏によるフェラ・クティ氏の評伝、以前から読んでみたいと思っていたが、先月アフリカ某所でその機会に恵まれた。アメリカ公演の挫折、パン・アフリカニズムの目覚め、ナイジェリア当局との永きにわたる闘い。内容はおおよそ既にメディアで語られていることの繰り返しだが、フェラがなぜ晩年とみに口を閉ざしたか、どのように彼独特の精神世界にのめりこんでいったのか、傍にいた者ならではの生々しい描写で綴られており、新しい発見がある。
 また、フェラが行った講演の抜粋がこの本でも描写されているが、そのメッセージは21世紀になった今でも鋭さを失っていない。イドウ氏は「まえがき」で本書執筆の理由を、「フェラの名前はナイジェリアのみならずアフリカ、さらに世界へと知れ渡っているが、彼の知識人としての姿はまったく知られていない」ため、としている。

「すべてのアフリカを統一した政府を持ったときこそ、我々は欧米に向かってこういえるのだ。『我々の石油が欲しいのかい。じゃあ、アフリカにも銀行があるから、ドルを持ってきてそこで換金するんだね』」
「アフリカを統一するために必要なのは、・・・・現在の植民地主義的な教育システムを変えることだ。・・・必要なのは彼らがアイデンティティを持つことのできる教育であり、大英帝国やヨーロッパの歴史を教えることではないのだ」
「自分たちの持っているものを信じないのなら、いったい何を信じるべきなのだろう?白人がアフリカにやってくるはるか以前、我々には独自の信仰があった。だが聖書とコーランがはいってきからというもの、我々はこの本を抱きしめながら、伝統的な信仰を捨て去ってしまった」

(原著:Mabinuori Kayode IDOWU, "FELA: Why blackman carry shit." 1997.
 邦訳:鈴木ひろゆき 訳、1998年、晶文社


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