Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

ワリス・ディリー 『Desert Flower』

 
 FGM(女性器切除)の廃絶に向けた運動を続けている元スーパー・モデル、ワリス・ディリー氏の自伝。事実は小説より奇なり。日本人には絶対に書けない文章です。初めて手に取ったのはアジアを旅行中の学生時代、タイの本屋で。当時は英語の文章を読むのが今よりおっくうでしたが、それでもむさぼるように読み進めたのを覚えています。日本語訳が出ているのを最近知り、改めて全文を読み返しました。

 ディリー氏はソマリア遊牧民の一家に生まれ、幼少時に割礼を受け、13歳のときに親に決められた結婚に反発して砂漠の村を飛び出し、親戚を頼って首都モガディシオに。たまたま駐英国大使と結婚していた叔母のつてでロンドンに渡航、メイドとして働いた後、マクドナルドのバイトをしているときにスカウトされ、モデルの道に。以降、ニューヨークに居を構え、スーパーモデルとして活躍。1997年、「マリ・クレール」誌に自身のFGMの経験を語ったことで広く世界に知られ、それがきっかけで国連の特別大使に任命された。

 この本では、(アフリカに住む遊牧民の人々が生まれもって持ち合わせている資質なのかもしれないが)彼女の驚異的な記憶力・再現力をもって、周りの人々との会話や、彼女が経験してきた体験の数々が、まるで読み手がその場に居合わせるかのような臨場感をもって綿密に、ドラマティックに語られていく。砂漠の村を飛び出してライオンに食べられそうになった少女時代、海外での仕事のために必要なパスポートが取得できず文字通り四苦八苦した下積み時代。どんな逆境におかれても、機転とチャンスを逃さない目鼻の良さで、前に前に、進んでいく。彼女の生き様が、読み手を捕らえて放さない。

 そんな彼女も、「息子が生まれて、私の人生は大きく変わった」と言う。「これまでは、どうでもよい小さなことにいちいち不満を言ったり、くよくよ悩んだりしてきた。だがそんなことは、意味のないことだと分かったのだ。意味があるのは、生命の尊さを知ること、それだけである。」ソマリアの砂漠の遊牧民の家に生まれ育ち、生き馬の目を抜くような華々しい業界を経験した、稀に見る経歴の彼女が語る言葉だからこそ、普通の人には発することのできない重みがある。


(原著:Waris Dirie. 1998.
 邦訳:『砂漠の女 ディリー』、武者 圭子 訳、1999年、草思社


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