Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

信濃毎日新聞社編 『北アルプストイレ事情』

 信濃毎日新聞に連載された同名記事の単行本化。日本随一の登山・登攀名所として知られる北アルプスの環境問題-登山者のためのトイレ-にまつわるトピックス。
 先週末の涸沢小屋で読了。

 今まで山小屋任せにしてきたトイレ管理、その驚きの実情が、現地新聞社の丁寧な取材によって描かれています。一方で、バイオ分解などの新技術の導入やヘリによる下界への便槽の搬送など、山小屋や自治体の方々による取り組み・今後の展望についても紹介されています。
 
 たとえばこれまでの常念小屋のトイレ処理。小屋近くの斜面に穴を掘り、丸太で周囲を囲ったうえで、トイレからポンプで糞尿をくみ上げて投入、自然の地下浸透に任せる。穴がいっぱいになれば、近くの場所に同じように穴を掘る。小屋が設立されて以来、現在穴は4代目。過去の「穴」は、山小屋の方によれば「怖くて足を踏み入れることもできない」とのこと。
 「穴堀り」方式のほかには、年毎の「沢への放流」方式も、ポピュラーな処理方法。

 山系は違いますが、富士山のトイレ処理の問題も有名な話。年間数万人が7、8月に富士山に登りますが、毎年9月になると、各小屋が一斉に山の斜面にたまった糞尿とトイレットペーパーを放流。富士山の世界遺産登録が一向に認められないのも、この景観の問題が一因といわれています。
 
 自治体や環境省、各山小屋の経営者による取り組みはもちろんのほか、いち登山者として、自分にも何かできることはないか、思わず考えさせられてしまいました。
 糞尿の持ち帰りはさすがに難しいと思ってしまいますが・・・、その他のゴミの持ち帰りはもちろんのこと、最近はどの小屋のトイレにも見られるようになった「糞尿処理のためのトイレ使用料1回100円の納付のお願い」ボックスへの積極的なコイン投入など。ほかにも何かできることあれば、積極的に行動していきたい、と改めて思いを至らせました。

                                   (2002年発行、みすず書房


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