Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

吉村 昭 『破獄』

 先週末に北海道のドライブ中に、とある道の駅で見かけた「網走監獄」のパンフレット。結局網走には行かなかったのですが、東京に戻ってきた後に読んだのがこの小説。読み始めると止まらず、一気に最後まで読み進んでしまいました。
 「昭和の脱獄王」と呼ばれた実在の人物をモデルに、①青森、②秋田、③網走、④札幌と4つの刑務所を脱獄するエピソードと、それに重なる戦前~戦後の日本の社会状況と刑務所内に与える影響について綴られています。
 
 まず題名にあるとおり、脱獄囚・佐久間の脱獄ぶりが凄い。よりによって4回。しかも史実。
 とりわけ脱獄不可能といわれ続けた網走刑務所を脱獄するシーンは読んでいて鳥肌がたちます。過去2回の脱獄歴を恐れた看守が特別に鋳造したナットで締めつけるタイプの鉄の手枷と足枷、壁の分厚い特別房、刑務所を取り巻く壁と密林、そして逃走後に敷かれた警察と軍隊の包囲網。これらの障害をどう乗り越えて脱獄を成し遂げたのか。ヒントは味噌汁です 笑
 (もちろん事情はどうあれ強盗殺人、数次にわたる脱獄という罪状じたいは、許されるものではありませんが・・)

 また読んでいて面白かったもう一点は、昭和初期の日本の社会状況が刑務所に及ぼした影響について、細やかに書かれていることです。
 たとえば、太平洋戦争突入後に、刑務所内の囚人も海外の飛行場建設や海軍の軍需工場・造船所での役務に従事していたこと。また、戦時下での囚人の脱走による社会的混乱を避けるために囚人の食事は戦前と同程度のカロリーが維持されており看守の食事よりも質・量において勝っていたことから、それが看守のモチベーションを下げていたこと、Etc.
 また網走の町が刑務所とともに発展してきたこと、道路や農地の開墾が囚人たちの手によって行われ、戦時下でも他の刑務所に比べて囚人が栄養価の高い食事を摂れていたことなど、網走の歴史・社会についても詳細な記述があり、とても参考になりました。

 佐久間の4回の脱獄ぶり、昭和初期の社会情勢、網走の歴史Etc. にご関心ある方にぜひおススメです。フィクションとしても一級品だと思いますが、単純に勉強にもなります。


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                               (新潮文庫、1986年) 

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